第38章 水色桔梗 ~2020誕生記念~ 【明智光秀】
光秀 「・・・その俺に似ている『せんぱい』とやらも暖かかったか?」
不意に出たその言葉に、ちくりと胸が痛む。
「さぁ・・・
先輩とはこんなに近づく前に離れてしまったので、分かりません」
光秀 「そうか・・・」
その時、肩を抱くように腕が回される。
ぐいと引き寄せられ、さらに身体が密着する形になった。
「っ・・・!?」
光秀 「俺は似ているのだろう?貸してやる」
力強く寄せられ、光秀さんの腕の中に身体を預ける態勢になってしまった。
着物の外からでは分からない、硬く逞(たくま)しい腕と胸。
そして香のかおり。
男の人を意識させるそれらに思わず息をのむ。
トクトクと心臓の音がするが、それがどちらのものかは分からない。
あぁ、あったかい。
この乱世に飛ばされてきて、初めて触れた「他人の」身体の温かさだった。
私はここで生きていく。生きていかなくちゃ。
突然この乱世に飛ばされ、何度自分に言い聞かせても、虚勢を張っていても、いくら優しい言葉をかけられても。
こうして腕に閉じ込められ否応なしに強い力に抱かれていると、自分の弱さが、ずっと押さえ込んでいた心細さが浮き彫りになってくる。
なぜかこの腕の中だけは感情を抑えなくてもいい、そんな気持ちになってしまった。
頬を生暖かい滴が伝い落ち、光秀さんの着物にぽとり、ぽとりと当たって吸い取られていく。
「ご、ごめんなさい」
あわてて懐から布を出そうとするも、光秀さんにやんわりと手首を掴まれ動きを止められてしまった。
そして少しかさついた親指が、目尻の滴をそっと拭ってくれる。
光秀 「そいつなら、連れ合いが涙したらこうするだろうな」
「えっ・・・?」