第38章 水色桔梗 ~2020誕生記念~ 【明智光秀】
莉乃はその場を取り繕うように、恥ずかしそうに手のひらを横にぶんぶんと振りながらはにかんでいる。
「悩み事など無いだろう」と光秀が揶揄するほど、いつもははつらつとして天真爛漫。
武将にも城下の町人にも分け隔て無く接する態度、それでいて誰もが振り返るほどの器量の持ち主。
当たり前に「いる」と予想できるが、先の世で夫がいたのか、恋仲の相手がいたのか、今まで誰も尋ねたことはなかった。
それは、「いた」という確証の台詞を武将たちは誰一人として、聞きたくなかったからかもしれない。
三成 「莉乃様・・・・・・」
こんな形で、思わぬ告白を聞いてしまった武将たち。
辛い過去や時空を超えた大変さを、今まで一切見せてこなかった莉乃。
そんな莉乃が抱えていた切ない思い出に、誰もかける言葉が見つからない。
親も友達も仕事も、そしてやっと成就した恋仲の相手まで手放して来てしまったのだから・・・
光秀 「俺がそいつに似ている?逆だろう、そいつが俺に似ているのだ。
歴史の順序で言えばな。
まぁ、余程の色男だったと言うのは間違いなさそうだが」
莉乃の発した切ない想いを、光秀が澄ました表情で笑いに変える。
秀吉 「ったく、自分で言うな!図々しいぞ!」
家康 「莉乃・・・趣味悪っ」
政宗 「おい、光秀系はやめとけ、光秀系は。苦労するぞ。
黙って俺にしとけ。」
光秀の言葉を発端に、言いたい放題の武将たちに笑いが起こる。
上座にいた信長もつられて笑っていた。
(光秀さん、そういうところですよ。)
皆と同じく笑いながらも莉乃は心の中で、光秀に向かってそっと呟いていた。