第38章 水色桔梗 ~2020誕生記念~ 【明智光秀】
それは、時空のゆがみからこの乱世に飛ばされる前。
莉乃は転職を控え、そして、長年憧れていた先輩へ告白した直後の事だった。
新しい仕事と共に、勇気ある自分になる。
ただ眺めているだけを卒業して想いを放ち、憧れの彼に一歩近づくと固めた決意。
莉乃の想いを聞いた先輩の答えは予想外に、OKだった。
何年も暖めてきた想いが実を結び、「ただの後輩の一人」から「彼女」になれたあの日。
それなのに・・・
初めて二人きりでのデートの約束をした直後に、この世に飛ばされて来てしまったのだ。
「・・・その先輩からはいつもからかわれてばかりでね。
普段は何を考えているか分からない人なのに、必要な時はそっと手を貸してくれるの。
意地悪で冷たそうで、でも本当の彼は誰よりもあったかくて。
だから、告白してオッケー、あ、恋仲になる了解をもらった時は、また意地悪されてからかわれてると思って警戒しちゃった。」
ふふっと笑い、どこか遠くを見るように数ヶ月前の事を振り替える莉乃。
「光秀さんて、雰囲気とか立ち振る舞いとか・・・
なんとなくその先輩に似てるんだ。
まさか誕生日まで同じとは、驚いちゃったよ。」
___ほんの数ヶ月。
しかし、もう決して戻ることのできない、遠い昔を懐かしむような儚い笑顔だった。
武将たちはただ黙って、聞いている。
「モテる、あ、女性から人気のある先輩だったから、今頃は新しい彼女ができてると思うんだ。
突然姿をくらました私の事なんて、とっくに忘れてると思うし・・・
それに何を想っても・・・もう帰れないしね」
物音一つしないその違和感にふと周りを見渡すと、真剣に耳を傾けている武将たちの佇まいに、我に返る莉乃。
「あ、やだ、ごめんなさい!なんでこんな話しちゃったんだろ!?
教科書に載ってる武将に恋バナするなんて、やっぱり酔ってるのかも・・・
すみません、忘れてくださいっ」