第36章 純白の羨望 【伊達政宗】R18
政宗に背を向け身なりを整えていく女は、自分とは身体だけの関係であることは承知していた。
そして政宗が他に思いを寄せる女が出来たのも、少し前から薄々感じていたのだった。
女の勘を舐めてもらっちゃ困る。
しかし、それは言わぬが花。
政宗が抱いてくれるうちは、その一時だけは。
武将と町娘、飛び越えられないこの関係を忘れて、ただの男女として愛し愛される。
そう思っていた。
(ふんっ、『莉乃』ね。
突然城に住むことになったという、謎多き織田家のお姫さんか。
相当な美人だと、城下でも噂になってたっけ。
店の男どもも「一目拝みてぇ」と鼻伸ばしてたあの子、ねぇ。
あたしとそのお姫さんを重ねちまうとは・・・政宗、相当だね。)
・・・この関係を清算する時が来たようだ。
苦い何かが胸の奥からせり上がってくる。
「公務の合間だったんだろ?さっさと着替えて城に戻んなよ。
さっ、あたしも店番に戻んなきゃ。
新しくできた店だから忙しいんだよ。」
そう言って何もなかったかのように鏡台に座り、乱れた髪に櫛を入れる。
先ほどした激しい口づけのせいで、紅が取れてしまっていた。
政宗が一人で着物を着ていくのを鏡越しに見ながら・・・
いつも情事の後は、私が着付けてやったっけ。
でももう、その必要なないね・・・
最後になるであろうその姿を目に焼き付けながら、紅をさし直す。
着替えを終えた政宗は先ほどの情事が何もなかったかのように武将の威厳を纏い、いつもの凜とした姿に戻っていた。
そして、静かに「またな」と言うとそっと長屋から出て行った。
・・・最後にあんな嘘をついて。
「また」なんてもう無いだろうよ。
名前を呼んじまったことで、自分の気持ちに気付いただろうに。
ほんと男って、馬鹿だね。
・・・あんないい男と、しかも天下の織田軍の武将と。
身体だけとはいえ、一時とは言え、関係を持てたんだ。
あたしの生い立ちなら、一生ご縁のない世界に。
人生、捨てたもんじゃないじゃないか。
鏡に映る自分を真っ直ぐに見て、言い聞かせる。
先ほど吸われた首筋に残る赤い跡をそっと指でなぞり、
こぼれ落ちそうになる涙を飲み込んだ。
畜生・・・!!
誰かに奪われるくらいなら、いっそ・・・