第35章 千歳の誓約 前編 【織田信長】R18
(信長Side)
穏やかな寝息を立てる莉乃を横抱きにして、向かうは天主。
『部屋に届ける』と言ったが、莉乃の、とは言っていない。
天主は自室だと思え、そして毎晩俺の隣で眠るようにと言ってあるものの、未だに莉乃は遠慮がちだった。
昨晩は、待てど暮らせど天主に来ない莉乃に業を煮やし、小姓に呼びに行かせたほどだ。
莉乃は「連日遅くまでの軍議で疲れてると思って・・・」と自室にいた。
疲れているからこそ・・・貴様が必要なのだ。
一人で眠る褥では、もう休まらん。
先の世では恋仲のことを『かれし』『かのじょ』と呼び合い、恋仲となった正式な契りとするらしい。
その制度に、なぜか心躍る自分がいた。
「信長様はもう私の『かれし』なんですから、浮気しちゃだめですよ」
信長 「するものか。貴様一人で手一杯だ」
その時に、『ゆびきりげんまん』というまじないのような動作を知った。
約束を破ると針を千本飲まされるという、光秀にも思いつかないであろう拷問があるらしい。
流石、針子の莉乃だ。
己が慣れ親しんだ道具を武器にするとは、なかなか考えつく物ではない。
気の優しい莉乃からそのような恐ろしい言葉が出たことに驚いたが、先の世では針子ではない者もそのまじないを行うと聞き驚いた。
先の世は・・・太平の世なのか争乱の世なのか分からん。
小指を絡ませ『ゆびきりげんまんの唄』を口ずさむ莉乃の愛らしさに、唄が終わらないで欲しいと願う反面、すぐに組み敷きたい欲で揺れた。
あのように恐ろしい内容の唄を、優しく暖かい声で見事に歌い上げた莉乃。
俺はすぐさま、己の身を以て約束の証を立てた。
だが・・・
その契りを交わしても、どこかまだ莉乃の全てを手に入れていないような気がしている。