第34章 情愛の行方【イケ戦5周年記念】石田三成編
三成 「莉乃様・・・
私には、縁談話が来ております。
信長様からの・・・
すなわち、私には守らねばならない妻ができるということ。
莉乃様のお気持ちに添うことはできません…
申し訳、ございません・・・」
そう言って、深々と頭を下げた。
莉乃様は慕っていると言って下さった。
しかも、ずっと前から、と。
私なんかに、勿体ないお言葉です。
その言葉を胸に、その言葉と共にいられるから。
私はあなたを諦めます。
感情が溢れだし、目の奥が熱くなる。
今、頭を上げて莉乃様を見たら、みっともない姿を晒してしまうだろう。
奥歯をぎゅっと噛みしめて、ただひたすら、感情の波が落ち着くのを待っていた。
「三成君・・・その縁談話はいつ聞いたの?」
三成 「つい先ほど、です。」
「秀吉さんが来ていたのはそれだったのね。
あの・・・
相手は誰か・・・聞いた?」
三成 「いえ、秀吉様も聞いておられないようでした。」
「三成君・・・
縁談の話した時、すごく辛そうだった。
もしかして、好きな女の子がいるの?
だから縁談が嫌なのかな?」
三成 「・・・・・・・・・」
何も答えられなかった。
この空白の時間が、延々かと思うほどに長く感じる。
「そうだったのね、分かりました。
あの・・・ありがとう。これで失礼するね」
莉乃様の声の様子がおかしい。
何かをこらえているような、苦しそうな声で…
莉乃様が走るように部屋から出て行くのと、
異変を感じ顔を上げたのはほぼ同時だった。
「莉乃様、ごめんなさい。」
閉じられた障子に向かって、ぽつりとつぶやく。
気持ちに添えないと言ったことで、莉乃様を傷つけてしまったのでしょう。
「困った時は頼ってください」と約束しましたのに…
高ぶる感情を、こうするしかなかったと理性で抑えようとする。
が・・・
一筋の涙だけは…
三成が自分に許した唯一の感情の吐露だった。