第34章 情愛の行方【イケ戦5周年記念】石田三成編
信長にとって莉乃と碁を打つ時間は、次々に起こる戦や治めた地の政など、信長が天下統一のために奮闘している血なまぐさい日々と離れられる唯一の穏やかな、他愛のない一時だった。
信長 「ふっ、たかが5年ごときで俺に勝とうと思っておったのか。
貴様の負けん気の強さは相変わらずだな。
しかし、もう5年とは・・・
月日が経つのは早いものだ。」
天主を、初夏の爽やかな風が駈けていく。
莉乃の細い髪を風が揺らし、頬にかかった。
そっと手で押さえるその仕草も、幾度となく見てきた。
信長 「夫を取る気はないか」
「・・・え!?」
碁盤から顔を上げ、目をまん丸に見開きながら驚いた声を上げる莉乃。
信長 「貴様もいい年だ。
そろそろ身を固めても良い頃だろう。」
本心では…
信長は莉乃を誰の元へもやりたくなかった。
5年前、己を助けるために危険を顧みずに火の中を共に抜けたあの日から、信長の心にはいつも莉乃の姿があった。
500年先から『たいむすりっぷ』とやらをしてきた莉乃。
物珍しさから『験担ぎ』としてそばに置いていたものの、その愛らしさと性格に、手放すことなど考えられないほどに惹かれていたからだ。
だが、自分は天下統一を成す身。
5年前に比べ戦が激化している昨今、常日頃より危険が伴いいつ暗殺されるかも分からない。
莉乃は『信長の寵姫』と言われている。
己と同じく危険の標的になることを懸念していた。
むしろ、俺に恨みを持つ者が痛恨の一撃を加えようと、莉乃の方へ危険をもたらそうとする場合も考えられる。
莉乃に惹かれれば惹かれるほど、莉乃の天真爛漫な笑顔を守ることも自分の成すべき事の一つと考えるようになった。
莉乃の安全を守るため、また、どこぞの馬の骨とも分からない男の元へと嫁がせぬ為・・・
自分の元から離し、織田軍の武将の中から夫を選ばせるつもりでいたのだった。