第34章 情愛の行方【イケ戦5周年記念】石田三成編
___天主
パチン、パチンと碁を打つ音が天主に響いていた。
その音は時折鳴りを潜め、しばしの静寂の後、また音を打つ。
軍議の後、久しぶりに時間が取れた信長は莉乃と囲碁をしていた。
・・・いや『時間が取れた』のではない。
『時間を作った』のだった、
莉乃にある重要な話をするために。
囲碁はそのきっかけに過ぎなかった。
信長は重大な沙汰を下す時でさえ、きっかけ作りや回りくどい言い回しをしたことなどない。
だが、この話をするにはそれが必要なほど、少しばかり・・・
莉乃へ話すのに気構えが必要な内容だった。
次の一手を熟慮している莉乃。
この少しうつむいた角度の顔を、信長は気に入っている。
この5年・・・
信長は莉乃を見てきた。
時の流れは莉乃にだけ寛容ではないかと思うほど顔形は変わらず、だが、5年前よりも少し大人の憂いと艶を帯びた、この美しい顔を。
信長 「貴様は・・・変わらないな」
「そうですか?
少しは上手くなったと思うんですけどね」
莉乃は打ち方の事だと思ったのだろう。
信長は訂正せずそのまま次の手が打たれるのを、手のひらに持った碁石をこすり合わせシャリシャリと鳴らしながら待っていた。
信長「ほう、今の手はなかなか良い。
少しは遊べるようになってきたな。」
「もう5年ですからね。
でも未だに信長様に勝てないのが悔しいです。」
そう言うと碁盤を真剣に見つめる目をそらすことはなく、穏やかに微笑んだ。
囲碁勝負で負けたら、身体の部分を一つ一つ奪う。
こんな賭けをして勝負を始めた頃が懐かしい。
結局の所・・・
その勝負は信長の勝利が延々と続いているものの、いつの間にかそれは身体を奪う賭けではなくなっていた。