第32章 情愛の行方【イケ戦5周年記念】明智光秀編
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腕の中ですやすやと眠る莉乃の髪を撫でる。
こんなに満ち足りた気分で横になるのはいつ以来だろうか。
いや、これほどまでの感情は・・・
そもそも今までに経験したことがないかもしれない。
己がたどってきた過去に、満ち足りることも温もりもなかったからだ。
莉乃は不思議だ。
腕の中に守るべき女がいるというのに、守られているのは俺かと錯覚するような包容力と暖かさがある。
無意識にぴったりと身体を寄せてくる莉乃の背中を抱き寄せ、お互いの身体の隙間を埋めた。
首元を見やるとところどころ赤くなり、跡になっていた。
色白の肌に咲いた小さな花のように。
それはもちろん、先ほど俺が付けた印。
莉乃すまない、
明日武将たちにからかわれてしまうだろう。
・・・まぁ、それも良いか。
俺の女だとあいつらに知らせる口実ができた。
それに、からかわれるだの跡になるだの、考えも及ばないほどに気持ちが高ぶっていたのだから仕方がない。
つるりとした冷たい毛束に口づけをし、その安心しきった寝顔を堪能している。
何時間でも、こうしていられる悦びに浸かりながら。
_____遡(さかのぼ)ること1ヶ月前、
あの宴の晩、「お前の口から聞きたい」と告げた後。
莉乃は箸で挟んだままのにんじんを皿に戻すと、背をすっと伸ばし大きく息を吸った。
風邪で潤んだ目に違う種類の熱が灯り、そして聞かされたのは・・・
俺の予想を優に超えた『告白』だった。
莉乃への好意を自覚し始めた俺だったが、もしも莉乃に対して何の感情を持ち合わせてなかったとしても、あの告白で確実に気持ちが動いていただろう。
まっすぐ自分に向けられた愛に、もはや恥ずかしさなど微塵も感じず、告げられる言葉の心地よさを受け取るしかなかった。
想いを告げ終えた莉乃はすっきりとした顔をしていた、こちらまで清々しく感じるほどに。