第32章 情愛の行方【イケ戦5周年記念】明智光秀編
廊下に出て一人となり、頭を整理させる時間ができた。
あいつらと信長様の言葉、そして家康の怒り。
頭の中で組み合わせると、まるで莉乃が俺を慕っているかのように受け取れる。
まさか、な。
部屋に着いた俺は障子の中へと声をかけた。
「光秀さん!? どうぞ…」
若干しゃがれた声の莉乃から返事が返ってくる。
声には動揺も現れていた。
中へ入ると、頬を赤くした莉乃が布団の上に座っていた。
見るからに熱があり、そのせいで目が潤んでいる。
いつものはつらつとした様子はないが、重い風邪でもなさそうだ。
光秀 「お前も風邪を引くのか、良かったな。」
「なぜですか」
答えが分かっていて聞いてくる。目を平らにしながら。
莉乃に怒る元気があるのを見て、ほっとした。
光秀 「説明が必要か・・・やはり風邪ではないらしい。」
「意地悪しに来たんですか」
光秀 「まあ怒るな。
ほら、これは政宗からだ。茶を煎れてやるから、食え。
三成がお大事にと伝えてくれ、だそうだ。」
「えっ!光秀さんがお茶を?! ありがとうございます」
先ほどまで怒っていたのに、茶を煎れてやるといっただけで途端にこの態度の変わり様だ。
ころころと表情が移り変わり、本当に・・・この娘は飽きない。
支度を調えてやると、莉乃はゆっくり茶を飲み始めた。
「光秀さんの煎れて下さったお茶、美味しいです」
たかが茶ごときでそんな顔をして。
いじめたいのか構いたいのか分からなくなった俺は、政宗が作っただし巻き卵を一口大に箸で切り、口に運んでやった。
光秀 「ほら、食わせてやろう」
一瞬戸惑いを見せた莉乃だったが、恥ずかしそうに目を伏せてぱくりと口を付けた。
光秀 「餌付けをしている気分だな」
「なっ!もう自分でやります!」
そう言うなり、箸を奪われてしまった。