第4章 梔子の嫉妬 ~後編~ 【徳川家康】R18
「どっ、どうしたの!? 急に!?」
ビクっとした様子の莉乃は、縫い物をしていた最中のようだった。
「え?倒れたんじゃ?」
「誰が?」
「莉乃が」
「へ?」
「・・・・・・・・・謀られた」
急ぎすぎて、まだ呼吸が乱れている。
そんな俺に
「ぷっっ、家康でも慌てることあるんだね」
と笑っていた。
___ずっと見たかった笑顔だった。
___政宗さんにも、光秀さんにも渡せない、
俺だけの笑顔にしたい…
二人が莉乃に言い寄るのを見て不愉快だった訳がようやく分かった。
気がついたら俺は莉乃を腕の中に閉じ込めていた。
「ちょっと、どうしたの!?」
莉乃が体を強張(こわば)らせるけど、腕の力は緩めない。
しばらく、そうしていた。
莉乃の暖かさと、心臓の音をただ、俺の中に閉じ込めて。
どのくらいそうしていただろう?
いつの間にか、莉乃の強張りは消えていた。
抱きしめた腕を解き、莉乃を正面に見据える。
その時ふと視線が捉えたのは、莉乃の指先に付く血だった
「・・・また?」
「急に入ってきたからびっくりして刺しちゃった」
「俺のせいか…」
着の身着のままで出てきた俺は、薬を持っていなかった。
莉乃の手を取り、指先にそっと口付けて血を吸う。
「っっ!!」
莉乃の顔に一気に火がつく。
いつも武将たちからからかわれた時に赤くする顔とは違う、艶めかしさがあった。
「…他の指も確認させて」
「ほ、他は刺してないよ。」
「大人しく、全部見せて。」
莉乃の細くしなやかな指を1本1本、確認していく。
その間、若干目を潤ませながらも俺の『観察』を受けていた莉乃。
__部屋の空気が濃密なものになっていく。