第3章 梔子の嫉妬 ~前編~ 【徳川家康】
家康は私の部屋まで来ると乱暴に障子を開けて、
部屋に押し込むようにし後ろ手で閉めた。
パシンッと乾いた音が響く。
「ちょっと、何するのよ!」
こうされるのも怒りの意味も分からず…
私にも家康の怒気が移った気がした。
口火を切ったのは家康だった。
「あんたさ!」
「何よ!?」
「隙がありすぎるんだよ!」
「は?」
「いつもヘラヘラしてるから、付け込まれてんじゃないの?」
「ヘラヘラしてないし、付け込まれてもない。」
「今、光秀さんに何されようとしてたんだよ?」
「……」
「ほら、言えないでしょ。
あんたがいつもそんなだから政宗さんだって!」
「政宗が何?」
「何でもないけど。
…とにかく、あんたはいつも隙だらけで見てられない。」
叱られているような気になった私は、怒りの勢いに任せて言う予定のないことを口走ってしまった。
「見てられないって何?
逆に家康はさ、隙がなさすぎるよ!」
「は?」
「いつも自分の殻に閉じこもってさ、誰も受け入れないみたいに!」
「・・・・・・莉乃に関係ないだろ」
「関係あるよ!
ちょっとは、付け入らせてよ! あっ・・・」
「・・・え?」
今、何言った?という家康の表情を見て、口走ってしまった内容に自分でも驚く。
慌てて口を押さえてももう遅い。
言葉はもう家康の耳へと届いてしまった後だった。
「・・・・・部屋から出て行って。」
そう告げると、「分かった」とだけ言って、家康は静かに出ていった。
自分で自分がいたたまれなかった。
『ヘラヘラしてる』 『関係ない』か・・・
そう見えていたんだ、家康には・・・
家康に会える軍議は楽しみで。
怪我をした時は、また家康が・・・って思ったら痛みすら嬉しさに変わってた。
一見、心を閉ざしているように見える家康の持つ暖かさ、優しさ。
私に今までしてくれたことは家康にとって何だったの?
私にもっと向けて欲しい。
私にもっと、もっと開いて欲しい。
そう願うのは、私が家康を・・・
でももう、諦めなくちゃいけないな。
中途半端に口から付いて出てしまった言葉のせいで、自分の気持ちに決着がついたことを、認めなければならなかった。