第3章 梔子の嫉妬 ~前編~ 【徳川家康】
(莉乃 Side)
気が付くと、目で追っていた。
冷たくぶっきらぼうに見えるその態度も、口ぶりも、
本当はあったかい人だって知ってしまったから。
最初にそう思ったのは、多分…
こちらの世に飛ばされてきて、1ヶ月くらいした頃のこと。
お針子の仕事で怪我をしてしまったのを隠し、軍議用にお茶を淹れていたときの事。
怪我した部分に荷重がかかってしまい、痛みで思わず盆を落としてしまった。
武将の皆が「莉乃はおっちょこちょいだな」と笑っている中、家康に「ちょっと来て」と広間から連れ出されてしまったのだ。
「やっぱりね。」
すぐに怪我を見破った家康はそう言って、袖から軟膏薬を出し、塗って布で巻いてくれた。
「2日したらまた見せて。」
「なぜ?」
「傷の治り具合見るから。」
「分かった、ありがとう」
「別に。
あんたがお茶淹れられないと、三成がやるって言い出すから。
それ片付けるの結局俺になるし。それが面倒なだけ」
言い方はぶっきらぼうだけど、乱世に来て心細かった私には気にかけてくれる人が居るってだけでとても嬉しかった。
それからの日々は…
お針子として仕事をもらったものの…
現世で勉強した洋裁と着物作りは全然違って、しかも全てが手縫い。
手法も作法も違う中で、何度も何度も指に針を刺してしまい怪我をした。
裁断用のはさみで切り傷を作った。
その度に、
「あんた、またなの」
と呆れ顔で薬を塗ってくれる。
ここ数ヶ月…
私が怪我をしたとき、それにいつも気づいて癒してくれるのは家康だった。
どんなに辛辣な言葉をかけられても…
心配してくれる目も、癒してくれる手も、私は知ってるから。
____明日、診察される。
病の原因を知られるだろう。
家康にしか治せない、その病の名を。