第26章 御伽の国の姫 前編
現代で言うところのウェイターさんが、ぶどう酒の入ったグラスを盆に載せ、優雅に会場内を回っている。
舞台の正面、最前列。
特別観覧席に座る信長様達と春日山城の皆さんも、それぞれがグラスを手にお酒と会話を楽しまれているようだった。
政宗だけは…ジュースらしきものを飲んでいるけれど。
___私が舞台に出演する事になってしまった理由。
それは今から1ヶ月ほど前に遡る。
信長様が取引をしている南蛮貿易の商人たちから謁見の際に、宴の発案があった。
いつも大量に買い付けをしてくださっている信長様に、感謝の意を込めた宴を催したいとの事。
その日は南蛮より持ち込まれた酒や食べ物を振舞い、余興も南蛮風のものを出すと言うのだ。
内容を聞いた信長様はそれは良いと二つ返事で承諾し、城の中庭を自由に使う許可まで出した。
大々的に開催したいという商人の希望で、信長様の傘下の大名や城下の貿易商人、そして春日山城の方々まで招待することになったのだ。
そこまでは良かったのだけれど…
謁見が終わりに差し掛かる頃、商人の一人がとんでもないことを言いだした。
商人 「信長様、こちらにいらっしゃる麗しい姫様を、当日お貸しいただけませんか?」
信長 「何?」
商人 「お見せする余興にぜひ、登場していただきたいのです。」
信長 「ほう、莉乃が余興に。
それは見てみたいものだ。構わないな、莉乃。」
「えっ!?私は何の芸もできませんよ?!」
光秀 「得意の腹踊りでも見せたらどうだ」
秀吉 「え、莉乃、お前腹踊りなんてできるのか?」
謁見に同席していた光秀さんがにやけ顔で言い、真に受けるている秀吉さん…
腹踊りって……
「ちょっと光秀さん!変なこと言うのはやめてください!
出来るわけないでしょ、秀吉さん!
…えっと、私は何をお手伝いすればよろしいのでしょうか?」
気を整えて商人の方に尋ねるも、
商人 「ご覧になる信長様には当日まで秘密にしておきたいので、後ほどご相談させてください。」
ウィンクされにこにこと返されてしまった。