第3章 梔子の嫉妬 ~前編~ 【徳川家康】
莉乃は織田軍の世話役という役目もあり、
戦の前後には沢山必要になる薬作りを手伝ってもらったりもした。
そこで、たくさんの話をした。
…いや、してない。
話すのはいつもあの子で、俺はそれを聞いていた。
俺がどんなに冷めた対応をしようと、バカにしようと…
太陽みたいな笑顔で笑うあの子が…
莉乃が眩しいと思っていた。
そして・・・気が付くとあの子を目で追うようになっていた。
そして、それを俺よりも早く気づいてる人間がいたなんて。
___________________________
「家康、聞いておるのか?」
「はい?」
「莉乃を診察してやれ」
「えっ?・・・はい」
「なんだ、不服か??」
「いえ、、、、」
「追って報告せよ」
「・・・分かりました」
「診察する」ということは、何処にあるか分からない答えを探すようなものだ。
自分で症状を把握できていればまだ解決の糸口はある。
しかし、先日の書庫での莉乃は何やら言うのをためらっていたような印象だった。
そういえば…
本能寺で信長様を助けた時、怪我をして出血した信長様の止血を莉乃がしたと聞いた。
莉乃には多少の医術の心得があるのか?
だからこそ、医者の俺にも言いづらい位、重い症状なのか・・・?
本格的に心配になってきた。
軍議が終わり、先に帰ったはずの莉乃の部屋へ向かう。
障子の外から声をかけると、莉乃の朗らかな声が返ってきた。
「どうしたの?家康」
「診察しろ、って。信長様が」
「えっ・・・」
「この間、薬欲しがってたでしょ? その後、体調はどうなの?」
「う、うん・・・・」
また、煮え切らない態度だ。目が泳いでるし。
「とにかく。ちゃんと診察するから、俺の御殿に来て。」
「・・・分かった。明日、伺うね」
そうして莉乃の診察をすることになった俺…
この先待ち受ける『いくつかの試練』が熱く苦しいものになるとは思ってもいなかった。
________________