第24章 悠久と玉響 【明智光秀】
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どうしてこうなってしまったのだろう。
光秀さんと一緒に船に乗る予定だった涼子さんは秀吉さんと一緒に乗ってしまい、私は今、光秀さんと湖面上にいる。
あちらの船に目をやると、楽しそうに会話している涼子さんの表情が見えた
___少なくとも光秀さんの時よりは会話が弾んでいるようだった。
湖面を撫でる風が、私の髪をさらっていく。
手で撫で付けながら、目の前でオールを漕ぐ光秀さんに目をやった。
まるで船とともに生きてきたかのように、動作がしなやかで様になっている。
銀の髪が湖から反射する光を受けて、輝いていた。
光秀さんは綺麗な人だなぁ。
見慣れている姿のはずなのに、ドキドキする。
どこか遠くを見つめていた切れ長の目が戻り、私の視線と交差した。
「堪能できたか?」
「はい?」
「ずっと俺を眺めていただろう」
「あっ、あぁすみません。
舟を漕ぐ様子があまりにも様になっているので…」
「見惚れたか」
「光秀さんは意地悪言わなきゃ、綺麗な人ですよね」
「は? 相変わらず突拍子もないことを言うな、莉乃は。」
笑っているけれど…
涼子さんへとは随分違う態度に、気持ちが落ち着かない。
「光秀さん、涼子さんに何と言うおつもりですか?
また逢瀬するとか…この先に進むことは考えてはいないんですよね?」
「あぁ、もちろんだ。
そもそも、お前の立場がどうのと三成が言い出さなければ俺から直接断るつもりだった。
信長様の過保護もあれほどまでとは…
莉乃と逢瀬ができると思ったから来たまでだ。
余計な秀吉まで付いてきてがっかりだがな。」
「光秀さん、からかわないで。」
少しむっとした顔を作ってみせる。
「莉乃は意地悪されるの好きだろう?」
「いーえ、まったく好きじゃありません!」
イーーっとして見せたが、それが余計に光秀さんに受けたようだった。
「俺は_____だがな」
「今、なんて? 風で聞こえませんでした」
「気にするな、戯れだ」
光秀さんが何を言ったのか、内容が気になる以上に…
その視線の持つ熱の方が私をざわつかせていた。