第24章 悠久と玉響 【明智光秀】
(光秀Side)
莉乃の立場を守るためと言われ、引くに引けなかった今回の逢瀬。
この娘には悪いが、全くもって興味がない。
まだ年齢も若い故、自分を救ってくれた賞賛の念を恋愛感情だと勘違いしているのだろう。
酔っ払いに絡まれた女子がいれば織田軍の将として当たり前のことをしただけで、ただの治安維持だ。
それ以上でもそれ以下でもない。
それがたまたま莉乃につてがあった、というだけのこと。
逢瀬の約束してしまった以上、早く済ませたい。
そして早急に断りを入れる、それが本音だった。
そもそも、逢瀬などしなくても結果は同じなのだが。
ただ唯一、この逢瀬で楽しみがあるとすれば、それは莉乃が同行するということだった。
あの場で咄嗟(とっさ)に閃(ひらめ)いた策に莉乃が上手く乗ってくれて良かった。
この娘と二人きりで逢瀬など行く訳がない。
だが結局・・・いらぬ秀吉まで付いてくることとなった。
しかもそれは、俺を最大限に苛つかせる原因となっている。
いくら二組で行く逢瀬とはいえ、莉乃の相手が秀吉など気に入るはずがない。
___まぁ、誰が相手でも気に入らないのだが。
爽やかな薄い青地の小袖に、濃い紫陽花が刺繍された帯。
繊細なつまみ細工の施された簪(かんざし)が、艶やかな髪によく映えている。
いつもより若干濃い目の紅を差し、城で見る莉乃とは違う雰囲気だった。
逢瀬ではこういう風で現れるのかと、莉乃の見慣れぬ姿に柄にもなく浮き足立つ自分に驚いてしまう。
その愛らしい姿の莉乃と共に馬に乗るのが俺ではないことに…
逢瀬の始まりから俺はささくれ立っていた。
いつもはこのように感情が乱されることなど滅多にないのに、だ。
馬上でこの娘から繰り出される他愛ない質問には、必要最小限の会話で済むように答えた。
ちらりと振り返った時、体を密着させ何やら親密そうに話をしていた二人。
益々気に入らない。
俺は速度を上げ、この逢瀬がすぐに終わることを念じて馬を走らせたのだった。