第3章 梔子の嫉妬 ~前編~ 【徳川家康】
(家康Side)
__安土城 書庫
「家康、ちょっといいかな?」
城の書庫で調べ物をしていると、周りを気にすように見渡しながら莉乃が現れた。
「なに?」
「多分、風邪か何かだと思うんだけど…薬が欲しいの」
___薬草の研究から病にも詳しくなった俺は、
城で有事の時に医者としても患者を診ている。
戦場では天幕を臨時の診療所として、薬の調合から傷の処置までだいたいこなしていた。___
「莉乃は風邪ひかないでしょ」
「なんでよ」
「それ、言わせる??」
そういって軽口を言い合うも、いつもはつらつとしている莉乃が体調不良と言うならそれは気になる。
「で、どういう症状なの?」
読みかけの本を閉じ、莉乃に向き合った。
「なんというか… 胸のあたりが変というか…」
歯切れが悪い。
「食べ過ぎ?」
「違うと思う」
「腹痛??」
「それも、違う…」
「ちょっと莉乃、
具体的にどんな症状か教えてもらえないと、薬調合できないよ」
いつもは竹を割ったようにはっきりしている莉乃がこのように濁すのは珍しい。
「だよね・・・ えっとね、」
言いかけたところで、書庫に光秀さんが入ってきた。
「俺のことは気にせず、逢瀬を続けてくれ」
「ちがっっ!!」
「莉乃が風邪っぽいからと薬を頼まれてたんです」
「莉乃は風邪などひかぬだろう?」
「光秀さんまでーーー!!」
こうしてその場の話はうやむやに終わってしまった。