第21章 猛将の憂鬱 ~後編~
「貴様は・・・
あのような煌(きら)びやか着物や化粧が好みなのか?
いつもは淑(しと)やかなものを選んでいるようだが。
あまりの違い様に驚いたわ。」
「えっと… TPOと言いますか・・・」
「は?」
「時と場合によって変えたい、とは思っています。
元々、私がデザイナー志望だったのはお話しましたよね。
服、つまり着物だけ作れば、それを着れば良いということではなく、髪型も化粧も草履まで含めて、人の見た目は完成すると思うのです。
煌びやかなものも、しとやかなものも、どちらも好きですよ。
その状況や立場にあったものを選択できれば。」
「なるほど。
貴様があのなりで現れた時・・・
どこにも行かせたくなかった。 武将たちの前に出ることすら、許しがたいと思ったほどだ。
しかし、莉乃は何を着ても莉乃だ。
着ていなくても、な」
そこでにやりと笑う。
「今後は…なりも立ち振る舞いも気負いしなくていい。
あの扇のようになったまつげ、なかなか良かったぞ。
さ、支度だ。」
信長様はお見通しだったんだ。
私が窮屈な思いをしていたことを。
『扇のようなまつげ』の表現が可愛らしすぎて、そして感謝の気持ちを込めて、思わず信長様の頬にキスをする。
「なんだ?先程のでは足りなかったか?
今宵もまた可愛がってやろう」
信長様からのキスのお返しは、当然唇だった。
私たちは着替えと支度を済ませ、一緒に軍議の間へと向かった。
「・・・・・・」
「なんだその顔は。緊張しているのか」
「はい・・・ あのような態度を取り続けてしまいましたから。
合わせる顔がない、と言いますか・・・」
「ふっ。
案ずることはない、いつも通りの貴様でいれば良い。」
いつもの私、か。
広間の入口で控えていた小姓さんが、中に向かって声をかける。
「信長様、莉乃様、ご到着にございます」
その途端、中から
「莉乃!?」
という秀吉さんの驚いた声が聞こえた。