第21章 猛将の憂鬱 ~後編~
「お、おはようございます」
皆さんにおずおずと挨拶してみる。
もう、何がいつも通りだったか思い出せなくなっていた。
三成 「信長様、莉乃様、おはようございます。
今日も清々しい朝ですね。」
いつも通りの笑顔を見せてくれる三成くんに胸がぎゅっとなる。
政宗 「やっと来たか!ったくお前は!!」
信長様の隣にいるというのに、気にせず髪をクシャりとなでてくる政宗。
豪快さも笑い声もいつも通りだった。
家康 「秀吉さん・・・なんで涙目なんですか」
呆れたような口調だけれど、口元は笑っている家康。
秀吉 「目が・・・両目にごみが入っただけだ!」
無風の室内でゴミが入って涙目の秀吉さん。
安心したような表情に、鼻の奥がツンとしてくる。
光秀 「またいじめられに戻ってきたか、バカ娘」
バカ娘呼ばわりされた私は、きちんとお返しする。
うん、勘が戻ってきた。
「光秀さんの意地悪には負けませんから」
凛とした表情を作り、その後にほんの少しの声で「童貞のくせに」と付け加えて。
武将たちが一斉に吹いた。
光秀 「ほう、しばらく見ぬうちに言うようになったな小娘。
俺が童貞かどうか・・・お前自身で確かめてみるか?」
にやりと笑い私のあごに手を添えた光秀さんに、信長様が「斬られたいのか貴様」と安定の突っ込みを入れた。
暖かい笑いが広がる広間。
ああ、今、分かった。
私の居場所はここなんだ。
500年先から飛ばされたから、ここで生きていくことを決めたんじゃない。
元々、ここにいる運命だったんだ。
信長様の隣で、武将のみなさんと共に生きることが。
500年を越えた事にこだわりすぎていた。
友達とか信頼とか…
これからいくらでも築いていける、この場所で。
それはパズルのピースがかちりとはまるような感覚だった。
ちょっとだけ出てしまった涙をぬぐい、
それからめいいっぱいの笑顔を見せて・・・
「皆さん、改めて…お世話になります!」と頭を下げた。
この先何があっても大丈夫、私には信長様と武将たちがいる。
信じられる、この人たちが。
猛将の憂鬱 後編 ~完~