第21章 猛将の憂鬱 ~後編~
___君主の幸せが一番と自分の感情に蓋をしていた秀吉は…
莉乃から拒絶とも取れる返答をされたことで、莉乃が妹分という立場を超えた存在になっていたことに気がついてしまった。
…そしてその感情に必死にあがらっていた。
今すぐにでも駆けつけて抱きしめ、謝り、傷つけてしまった心を癒してやりたい、という感情に。
光秀 「俺たちが案じていても仕方がない。もう過ぎたことだ。」
まるで自分が一番その言葉を必要としているかのように、光秀が皆に言う。
誰もが納得していないその言葉に全員が頷きながら、その場は終了した。
____________
それからの日々は、武将の誰にとっても苦痛だった。
莉乃はそつなく業務をこなす。
完璧なタイミングで茶を入れて出し、その他の世話役としての勤めに何の問題も、文句も出ない程。
もしも、何かほんの些細な事でも…失敗してくれたら話しかけるきっかけができるのに、と。
武将たちが求めていたのは莉乃の笑顔や場を和ませる会話だった。
前のような莉乃に早く戻ってきて欲しかった。
軍議の後、誰も茶が飲みたいわけではない。
莉乃が煎れた茶で、それをきっかけに莉乃と会話するのが楽しみだったのだ。
今日もまた軍議終わりで茶を出した莉乃は、武将たちが飲み終えるのを下座の片隅で静かに待ち、片付けをして広間をあとにした。
家康 「あの態度。そろそろ限界なんですけど」
秀吉 「何が限界なんだ。って俺も似たような気持ちだけどな…」
政宗 「ほんっと、頑固だなーあいつは。」
三成 「……そうでしょうか?」
光秀 「何が言いたい、三成」
三成 「頑固なのは、私たちでは?」
皆が一斉に三成を見る。
家康 「何言ってんの、お前。
怒ってあんな態度とり続けて。間違いなくあの子でしょ。」
三成 「その原因を作ったのは私たちです。
傷ついておられるのが分かっているのに。
私たちの誰か一人でも…
莉乃様のお気持ちに寄り添うような事をして差し上げましたか?
あんな態度でいるしかない莉乃様を見放しているのは私たちの方ではないでしょうか。」