第21章 猛将の憂鬱 ~後編~
____翌日 軍議の間
いつものように軍議が終わる頃。
「失礼します、お茶をお持ちしました」
これまたいつのものように莉乃がお茶の準備をして広間に入ってくる。
しかし声だけは…
いつものような朗らかさはなく、事務的そのものだった。
「おっ、莉乃、き…昨日は良く眠れたか?」
なんと話しかけて良いのか分からないといった風の秀吉が、いつもと全く違う雰囲気の莉乃に話しかけた。
まるで、薄い壁が莉乃を包んでいるかのような…
人懐っこくあけっぴろげな莉乃の影は無くなっていた。
「はい。」
一瞬、秀吉の方へ視線を向けたのは、必要最低限の礼儀のつもりだったのだろう。
いつもの莉乃であったなら、「うん!秀吉さんはちゃんと寝れた?」とにこにこしながら話を繋げるはずなのに。
抑揚なく話を切るその言い方に、他の武将たちも思わず目を合わせる。
手早く茶を配り終えると、莉乃は「失礼しました」と言って隙のない所作で広間を後にした。
___昨日の件が莉乃に大きな打撃を与えてしまったことを、武将たちはひしひしと感じていた。
三成 「莉乃様…」
そっと閉まった襖を見つめる三成。
政宗 「まだ怒ってるのか莉乃は。
ったくしょうがねぇな。 のぶな__」
信長に話しかけようとした政宗は思わず口をつぐんだ。
三成と同じく閉まった襖の先を見ていた信長の目に、喪失感とも取れる悲しみが宿っていたからだ。
政宗が光秀の方へ視線をやると、全てを察したような光秀は「やめておけ」とでも言うかのように、首を左右に振ってきた。
一瞬でその目に宿る感情を消した信長の号令で、軍議が終了する。
昨日の件には触れず、漆黒の羽織をはためかせ軍議の間から出て行った。