第20章 猛将の憂鬱 ~前編~
三成 「莉乃様、あちらにいらっしゃいました!」
光秀 「静かに!声にも気をつけるんだ。」
武将たちは楽しそうに市を歩く莉乃と針子2名の後ろ姿を確認した。
秀吉 「一緒にいるのは彩乃と夏希だな。
男じゃなくて、まずは一安心だ」
光秀 「さすがたらしの秀吉。針子の名前も網羅してるとは恐れ入った」
秀吉 「莉乃が針子になる時に、針子部屋に勤務する全員の身元を洗い直した。だから、だ。」
政宗 「しっかし、莉乃だけじゃなくあの二人も着飾ってるな。随分と目立ってるぞ」
家康 「はぁ… さらに面倒なことになる予感しかしてません」
莉乃とその友人である彩乃と夏希の3人は、茶屋の外にある長椅子に腰掛け、早速団子と茶を注文したようだった。
物陰に身を隠す武将達。
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彩乃 「今日はいっぱい見てまわるぞー! まずは腹ごしらえ、だね!」
夏希「うんうん! 腹が減っては買い物できぬ!って言うもんね。」
莉乃 「そうそう!」
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家康 「バカだ…」
秀吉 「あぁ!あんなに団子を注文して…
まさか全部食べるわけないよな!?食べるのか…
甘味ばかり食べたらだめだっていつも言ってるのに…
あぁ、もう、見てられねぇ!」
光秀 「待て、秀吉!」
思わず莉乃達の前に飛び出してしまった秀吉。
「秀吉さん!?こんなところで何をしてるの?」
途端、訝しげに目を細める莉乃。
隣にいる針子も驚いている。
「あ、いや…
たまたま通りかかっただけだ。公務だ、公務!
あ、あまり食いすぎるなよ。糖分の摂り過ぎは___」
「秀吉さん、まさか付いてきて小言じゃないよね?」
「も、もちろんだ!
俺たちが『じょしかい』を邪魔するわけないだろう。
ただ、な、栄養の偏りは不健康を引き起こ__」
「『俺たち』って何。
とにかく、秀吉さんは公務に戻って。」
「わかった・・・」
能面のように表情を消した莉乃にたしなめられた秀吉。
莉乃の視線を避けて武将たちの元に戻った後、「『決して近づいたり視界に入るな』と言ったろう」と光秀からこっぴどく叱られたのだった。