第20章 猛将の憂鬱 ~前編~
500年も前に来てしまったけれど、いつの時代も女の子が好きなことと言えば、ショッピング、スイーツ、おしゃべり、だ。
いつも城下へ行く時は秀吉さんや三成くんが付いてきてくれるけれど…
それは目的があって買い物に向かう城下で。
今日のようにあてもなく彷徨いながら、気になったお店に入り、あーでもないこーでもないと言い合いながら見て回る、女子特有の買い物ではない。
しかも、織田軍のトップクラスの武将を引き連れているとなれば、お店の人やすれ違う街の人の対応も違う。
こちらが恐縮してしまうほどの対応をされてしまったり、お会計は受け取れないと言われてしまったり…
一般の女の子といわゆる「女子会」をこの後に控え、
私はとても浮き足立っていた。
今日はいつもより少し華やかな着物を選んだ。
前に仕立てたけれど、普段着には少し派手だと思ってしまいこんでいた、濃い色の小袖を引っ張り出してきた。
いつもは姫という立場上、派手にならないように淡い色を着ることが多いから、着物の色が違うだけでも新鮮な気持ちになる。
髪は細い編み込みを作ってから結い上げて、キラキラの飾りが垂れる簪(かんざし)を刺した。
濃い着物の色に合わせて、口紅も濃い目にしてアイラインも入れた。
タイムスリップした時にカバンに入れていた化粧ポーチから久しぶりにビューラーを取り出し、まつげをくるんとカールさせている。
さらに、口紅の上からリップグロスも重ねた。
この時代にはまだ無いものだから普段はしないけれど…
今日くらいはいいだろうか。
今日は、姫じゃなくてもいいんだ。
おしゃれが好きな、お化粧が好きな女の子でいられるんだ。
久しぶりに楽しい気持ちでいっぱいだった。
女子だけの集まりでも華やかでいたい。
むしろ、男ウケを気にしないぶん好きに着飾れるから、女子だけの方が華やかになるかもしれない。
それが女心だ。
___その気持ちが男性には理解されない事を、その時はまだ知る由もなかった。
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