第19章 傾国の紅粉 【徳川家康 編】 R18
______後日
莉乃を後ろから抱きしめるようにして座りながら、温泉に浸かっている。
ほんのり冷たい風が、火照った頬を撫でて気持ちがいい。
「すっごく気持ちいいね! 連れてきてくれてありがとう」
首だけ後ろに向けて莉乃が今日何度目かのお礼を伝えてきた。
桜色の頬をして、目をキラキラさせて。
すかさず、チュっと音がするくらいの口付けをする。
それもするのも、今日何度目か、だった。
____俺は莉乃の誕生日のお祝いにと、温泉旅行を計画していた。
信長様へ、俺と莉乃が二人同時に休みを取ることを秘密裏にお願いして。
その時の天主はちょっとした騒ぎになった。
俺が願い出ているのを、ちょうど天主の廊下にいた秀吉さんが聞いてしまったからだ。
いつもは絶対にすることのない、許可なく襖を開けて飛び込んできた秀吉さん。
「家康お前、いつの間に莉乃に手つけたんだ!!!」
「ちょっとなんなんですか。
いきなり入ってこないでください。それに、まだ手付けてません」
「まだとはなんだ、まだとは!
信長様、絶対に行かせてはいけません。
家康のやつ、手を付ける気です!」
扇を仰ぎながら、信長様はうるさそうに目を細めていた。
「家康が誰に手を付けるって?」
なぜか光秀さんまで乱入してくる…
「もう、なんなんですか、揃いも揃って。
入ってくるなら声かけてくださいよ、二人共」
「秀吉の騒がしい声が廊下まで丸聞こえだったからな」
楽しげな声で言ってくる光秀さんの目は…笑っていなかった。
「構わん。好きに行かせてやる。
あやつの目を見れば、家康以外に見えてないことなど丸わかりだ。
止めても無駄であろう。」
若干、優越感が出てしまったのを慌てて隠す。
こういう時の光秀さんは鋭いから。
「ありがとうございます。
誕生祝いの宴の後に莉乃に言うつもりですから、それまで知られないようにしてくださいよ。
お二人共、頼みますね。」
努めて冷静に釘を刺す。もちろん、秀吉さんと光秀さんに。