第19章 傾国の紅粉 【徳川家康 編】 R18
俺は医者だから・・・
未経験の女性の体の状態がどういうものか、知識として知っているつもりだ。
体だけじゃない、精神的な面がどれほど影響するかも。
だからこそ、今この目の前にいる大事な恋仲に大きな傷を負わせてしまった事に愕然としていた。
「本当に、ごめん…」
莉乃の開かれた浴衣の合わせを重ね、体を隠す。
こんな事をしてしまった以上、この先、俺が莉乃に触れることは許されない。
それどころか、恋仲でいることも・・・
一緒に茶屋に行くことも、夜更けまで薬を作ることも…
してもらえないだろう。
失ったものの大きさに気づき、胸が締め付けられる。
莉乃と俺が別れたと知ったら…他の武将たちは喜ぶのだろうか。
莉乃はいつか他の誰かと恋に落ちて・・・
優しく抱かれるのか、俺の時と違って…
想像しただけで背筋が凍るほど、恐ろしい。
・・・それでも、やるべきことをしなければ。
「湯おけ持ってくるから… 体、清めた方がいい…」
だらしなく緩んでしまった夜着を直し、部屋から出ていこうとする。
「ごめんなさい…」
か細い声が背中から聞こえた。
振り返ると、莉乃は畳に座り膝を抱えていた。
あぁ、そうだった、畳の上だったんだ…
褥でもない所で抱こうとして…
申し訳無さ過ぎて莉乃を直視できず、下を向く。
「なんであんたが謝るんだよ…
ひどいことしたのは俺の方でしょ…」
「黙ってて…ごめんなさい」
「は? 何を?」
「その…経験がないことを…
この時代の女の人って…
私くらいの年齢だと、子供が2,3人いるのが当たり前でしょ。
それなのに、私はまだ…… 恥ずかしくて、言えなかったの。
面倒くさいと思われるんじゃないかって、怖かった。」
そういうと涙が落ち、畳に当たってポタっと乾いた音がする。
胸に温かいものが広がる。
「あんたね… 本当に・・・ばか」
踵を返して、莉乃を抱きしめた。
俺に抱きしめる資格なんてない、分かってはいるのに…
この愛しい恋人を腕の中に閉じ込めたくて仕方が無かった。
誰にも渡せない、俺の大事な姫様だから。