第19章 傾国の紅粉 【徳川家康 編】 R18
障子の前に立ち、深呼吸する。
「莉乃、俺だけど。」
「あ、うん、今開けるね」
声が沈んでいる。
それはそうだろう、あんなことを言ってしまったのだから。
そっと開いた障子から、申し訳なさそうにしょんぼりとした莉乃が顔を出した。
「どうぞ…」
そう言って部屋に通されると、俺と少し離れた所に座る。
___静まり返る部屋。流れ続ける沈黙。
「俺が__」
「わたし__」
同時だった。
「どうぞ」
「言って」
これも、同時だった。
「被せてくるなよ」
「家康もじゃない」
睨み合うも、それは長続きせずお互い堪えきれずに吹き出してしまう。
「ばかじゃないの」
冷たい表情を作ってみるも、ふにゃりと笑うあの子に、俺はなんだかんだ言って勝てない。
沢山の文句を用意して来たはずなのに。
「…なんであんなこと言ったの。
言いたいことは山ほどあるけど、先に言い訳、聞いてあげる」
そう言うと、莉乃はまた先のようにしょんぼりとしてしまった。
「あのね…
私たち、恋仲になって三月(みつき)でしょ?
家康と、仲良くなったと思ってるけど…確証が持てなくて…」
「は? …確証って何?」
「だから、その…
家康はちゃんと私のこと恋仲の相手として想ってくれてるのかな、って…」
「当たり前でしょ。」
「家康って…
考えてることが読めないから、ほんとにそうなのか不安なんだよ…」
「それが今夜の宴での『夜伽』とどう結びつくわけ?
・・・・・・あぁ、なるほどね。
俺が莉乃に関係を迫らないから不安、ってことか。
だからあんな暴挙に出たんだ」
「ぼ、暴挙って!そんな言い方・・・」
「俺は俺であんたとのこと考えてるつもりだったけど。
そんな事で莉乃が不安になるなら・・・
いいよ、分かった。」
少し離れて座っていた莉乃に近づき、畳に押し倒して組み敷いた。