第18章 傾国の紅粉 【豊臣秀吉 編】 R18
差し込む月明かりで、全ての輪郭がぼんやりとしている室内。
隣で寝ている秀吉さんの寝顔をじっと見つめる。
みんなのお兄さん役な秀吉さんも、寝ているときは少年のようにあどけない。
信長様の右腕として何千もの家臣を指揮する武将なのに、たてる寝息は穏やかで平穏そのもの。
いつも周りのみんなに気を配る優しく頼もしいところも、笑うと余計に垂れる目も、ゆるふわの髪の毛も、抱きしめてくれる強い腕も、挙げればキリがないほど、全部大好き。
もうこの人以上に好きになれる人なんていない、
そう思ったから…
今日は決心していた。
秀吉さんに、捧げると。
思いが遂げされなかった今、私の心は満たされない不安でいっぱいになっている…
秀吉さんは私の事、女として見てくれてるの?
その時、ふと思い出した。
『人間の本性は、意識がないときに出るものだ』
と何かで読んだことを。
寝ている今は意識がない・・・ならば自制心は働かない…?
秀吉さんの深い部分に触れられるかもしれない。
秀吉さんに体をぴったりと沿わせるように隣に詰める。
横向きで向かい合うように。
そっとつぶやいてみる。
「秀吉さん、少し寒いの。」
腕が背中に回され、抱きしめられるような姿勢になった。
観察すると、相変わらず寝息はそのまま。
無意識下でも聞こえているのか、抱きしめてはくれる…
・・・なるほど。
次は、秀吉さんの唇に付くか付かないか程に口を寄せて、甘くつぶやいてみた。
「秀吉さん、口付けして欲しいの」
「ん・・・」
一瞬身じろぎをしたけれど、すぐに顔が近づかれ、唇が触れ合う。
閉じたまぶたに変化はない。 これも、無意識みたい。
・・・・・・なるほど、なるほど。
何時(いつ)なんどきでも、非常事態とあれば起きて行動しなければならない武将にとって、睡眠中とは言え完全に意識を閉じているわけじゃないのかも。
素人考えだけれど…
今なら素直に聞いてくれるかもしれない、そう思った私は本心を語りかけた。