第18章 傾国の紅粉 【豊臣秀吉 編】 R18
「わ、悪い!着替えの途中だったのか。
俺は廊下に出ているから、着替え終えたら声をかけてくれ」
慌てて部屋から出ようとする。
「秀吉さん待って、話したいことがあるの」
背を向けた俺の手首が取られた。
「話なら後で聞くから、先に着替えを__」
「必要ない。 今、聞いて?」
___声に頑固さが加わった。
この声色になった時の莉乃に反論してはいけないことは、この三月(みつき)の間、一緒にいたからよく分かっている。
「・・・分かった」
そう言うものの、莉乃の方は振り向けない。
「じゃあ…このまま聞かせてくれ。」
莉乃に背を向けたまま、開けかけた障子から手を離す。
「……秀吉さん、多分、誤解してる。」
「俺が…?」
「『夜伽』が何か分かってる?」
「あ、あぁ。『夜伽』、だろ。
誤解しているのは莉乃の方だと思うぞ。
それをちゃんと教えてやろうと思って。」
「秀吉さんが言ってる夜伽と、私が言ってる夜伽は違うと思うの。」
「…さっぱり意味が分からないんだが??」
「私が言ってる『夜伽』とは、男女の営みのこと。
秀吉さんは、添い寝、くらいに思ってない?」
そこで初めて合致した。
お互い、最初から意味は通じていたのを、俺が勝手に……
ということは、
「は!!??」
思わず振り返ってしまった。
そして、莉乃の姿を正面から捉えてしまい、慌ててまた背を向ける。
「何を言ったのかわかってるのか?! あんな…
信長様や武将たちの前で!
お前、皆の前で俺を誘ったってことなんだぞ!!」
「うん、分かってる。 全部、分かってて言ったの。だって…」
「だってもへったくれもない!! だめだぞ、あんなこと…
莉乃は飲みすぎて気が立ってたんだな。
茶菓子でも、と思ったが… 今日はもう寝ろ。な?
ひと晩経てば、気も落ち着くだろう。」
ちらりと振り返り、莉乃の表情を確認する。
他の部分は見ないようにして。
莉乃はしょんぼりとしながらも、何かを考えているようだった。