第2章 真紅の彼方 ~後編~ 【織田信長】R18
「信長様、莉乃です。」
永遠かと思うような間があり、
「・・・・・入れ」
やっと答えが帰ってきた。
「失礼します」
そう言って中に入って、ハっとした。
信長様は私が作った夜着を着てくれていた。
「こんな時分にどうした?
あぁ、そういえば話があると申しておったな。その用か?」
___信長様の文机には、鎮圧に向かう前と変わらず書状が積み重なり、
いや…むしろ量は増えているかもしれない。
今も何か書いていたのだろう、途中と思われる手紙のようなものが置いてあった。
報告書も何やら紙の束も、床にも重ねられるほど溢れていた。
淹れられたお茶はやっぱり冷めていて、天主と同じように冷たさを放っていた。___
この時代は、夜になると暗い。
ろうそくの光で明かりを灯すけれど、それでも現代とは大きく違う。
ぼんやりとした光の中を進み、信長様に近づく。
話があると言ってしまったけど・・・
実は自分が何を伝えたいのかまとまっていなかった。
はっきりしていたのは___
今まで離れた所から私を支えてくれた方のそばに、ただただ、行きたかった。
「信長様、そのお怪我は??」
頬から耳の下に向かって、すり傷がある。
よく見ると、両手首にも。
「あぁ、矢が飛んできた。」
そうにべもなく言う信長様に、胸が押しつぶされそうになる。
信長様たちがいつも死と隣り合わせの生活を送っているいう事に、私は未だに慣れていない。
「…薬を塗らせてください」
私はそう言うと、信長様の答えを待たず向かい合うように座った。
「失礼します」
そう言い着物の上の合わせに手を入れ肩から落とし、上半身を露わにさせる。
一瞬、真紅の瞳が揺らいだ気がするけれど、あぐらをかき、黙って私の言われるがままになっていた。