第5章 ジェイド【後編】
「…ジェイド先輩、私に貸してくれたマジカルペンって本物?」
「いえ、フェイクです。僕のマジカルペンは常に懐の中にありました。貴方が魔法を使う時、背中の後ろで操作させて頂いておりました。」
「最初からそんなの持ってたんですか!?」
「えぇ、常に機会を伺っておりましたから。あの時は本当に絶好の機会だと判断しました。…結果、思惑通り貴方は僕の番……陸の言葉では恋人と言うんでしたか。」
「そっ…そうですね…恋人、です。」
「そうして真っ赤になる姿が実にいじらしい。」
繋いでいた手が外れ、改めて指を絡めて繋がれる。男らしい骨張った手にドキドキして顔に熱が集まった。顔をジェイド先輩へ向けると、とても優しい顔付きをしていて余計に執着心が募る。
「今日はこのまま僕の部屋に泊まって下さい。制服はまだ乾きませんし、もう遅い。」
「え、でもグリムが起きた時びっくりしちゃうし…。」
「少し早めに起きましょう。僕が起こして差し上げます。」
「そんな、でも……ぎゃ!」
徐に先輩はベッドへ足を乗り上げ奥へ詰めるなりグイッ、と手を引かれる。力で叶うわけが無い私は引かれるがままベッドの中へと引きずり込まれた。手早く互いの身体に毛布が掛けられ、とても近い距離で視軸が絡む。
「折角捕まえたんですから今日くらい、僕に時間を頂けませんか?」
「っ〜〜…!本当に狡い人…。」
「ご承諾頂けるということで宜しいですね。」
「はい…。」
頬を撫でる指先に、私は小さく頷いた。これでは心臓が幾つあっても足りない。狭い布団の中で密着が深まり、心地よい体温と先輩の匂いに落ち着かない。
「こうしてさんを独り占めに出来る日をどれだけ待ちわびた事か。あわよくば、毎日でもこうして夜を共にしたいのですが。」
「グリムが寂しがるんでダメでーす。」
「これは手厳しい。…仕方ありませんね。卒業する迄は時折こうして来て頂くだけで譲歩致しましょう。」
「卒業……。」
私はその時までこの世界に、居られるのかな。…そうだ、私、いつか帰らないといけないんだった。
そんな当たり前の事を忘れてしまうくらい楽しい日々なのだ。
つい、固まってしまうと眼前のジェイド先輩の表情が歪にゆがむ。ぞわり、と心臓がザワついた。
「…まさか、帰れるとお思いで?」
「え……。」