第5章 ジェイド【後編】
「さん、こちらへ来て下さい。」
「あ、はい…!」
キョロキョロしていたら部屋の奥から声が聞こえる。慌ててそちらへ向かった。呼ばれて入った場所は、洗面所だ。お風呂も隣にある。…いや、なんで当たり前のようにお湯張られてるんだろう。
「…どこまで計算通りなんです?」
「ふふ、さて…どこまででしょう。タオルと着替えは用意しておきます。脱いだものはこちらの籠に入れて頂けますか?」
「ありがとうございます。…えっジェイド先輩はどうするんですか?」
「僕は元々人魚ですので。体温は低いですし濡れたところで問題は有りません。…あぁ、貴方がどうしても僕が心配で堪らないというのであれば、有難くお風呂にお供させて頂きますが。」
「な…い、いい!風邪引かないなら大丈夫です!!」
「おやおや、そう照れなくても。」
「グイグイ来るなぁ!」
「ふふ、生憎我慢というのは性にあわないものでして。」
居残ろうとする彼の背中を押し無理矢理扉を閉めた。この先この人と付き合ってたら本当に身が持たない気がする。そんな事を考えながらずぶ濡れになった制服を脱ぎ、浴室へと入る。やっぱりオンボロ寮よりずっと綺麗だ…。羨ましい。
湯船につかり瞼を降ろしてジェイド先輩にちょっかいを掛けられた日の事を思い出す。
「…あの時から全部、考えてやってた事だったんだな…。」
そういえばマジカルペンを返した時直接私の手から受け取ってそのまま魔法使ってるところ、見た事ないな。まさかあれもフェイク…?そう考えるとちょっとゾッとした。用意周到すぎる。
余り長湯するのも申し訳なくて勝手にシャンプーやボディーソープ等を借りて身体を洗い浴室から上がる。すると、直ぐ横の棚の一角にはバスタオルにパジャマにドライヤー…そして何故か下着まで置かれてる。いや、なんで。なんでさも当然のように女物の下着が置かれてるんだ?驚きを通り越して怖いんだけど…。
「その癖パジャマはジェイド先輩のサイズだよねこれ。」
パジャマというか長袖のシャツなのだけど。めっちゃでかい。ズボンも置かれてるがウエスト合わなさ過ぎ。
とりあえず肌着を身に付け、シャツを着てみる。分かってはいたが袖は長いし丈も短めなワンピースみたいになった。…ズボンはもういいか。借りてる身だしこれ以上文句言うのは辞めよ。ドライヤーでしっかり髪を乾かし洗面所を出た。