第5章 ジェイド【後編】
「おや、そんな事有りません。貴方が濡れたままの制服で明日登校できるというのであれば…大変心苦しいですがオンボロ寮までお送りするしかございませんでしたから。」
クスクスと喉を鳴らし、静かに笑ったジェイド先輩は、徐に着ていた寮服のコートを脱ぐ。紫色のシャツが肌に貼り着く姿が余りに色香を放っていて、目を逸らしてしまう。やり場に困って縮まっていたら、肩に何かが掛けられた。それは、脱いだばかりの彼のコートだ。
「ジェイド先輩?」
「身体を冷やすのは良くないでしょう。僕のコートも濡れてしまってはいますが無いよりマシです。それでは、オクタヴィネル寮まで御案内致しますよ。」
「…もー、全部計算済みのくせに。」
「ふふ…なんの事やら。」
それでも気にかけてくれることが嬉しくて、肩から掛けられたコートをギュッっと握りジェイド先輩と共に土砂降りの雨の中、オクタヴィネル寮に足を運んだ。
時間も時間という事もあり、談話室には誰も居ない。多分それぞれの部屋で既に落ち着いているのだと思う。話し声は至る所から聞こえてきた。
「こちらです。」
「…あの、ジェイド先輩って誰かと同室なんじゃないですか…?」
「いえ、寮長、副寮長は個別に部屋を与えられるので一人です。良くフロイドが遊びに来ますが、今日は来ないようにと釘を打っておきましたのでご安心を。」
「…え?それって…」
「おや、今更お気付きになりましたか?当然、僕と二人きりです。」
そういって、部屋の扉が開かれた。一気に顔が熱くなる。こんな所で、二人きりなんて…!!
部屋に入る事を躊躇する。何が起こるか、分からないほど私も馬鹿では無い。ジェイド先輩に視線を向ければ、一度だけ微笑まれた。少し高圧的な笑顔で。
「…ふ、服乾かしたらすぐ帰りますから…!」
「何を仰っているのです?まずその冷えた体を暖めて下さい。風邪を引かせるわけにはいけませんから。それと…今日は帰しませんので、そのつもりで。」
「ひゃ…!」
耳元へ寄せられた唇は静かに囁く。…ええい、こうなったらままよ…!付き合う事になったんだからどうにでもなれ…!!そんな思いで彼の部屋へと飛び込む。
部屋を見渡してみると、とても綺麗に片付けられていて如何にもジェイド先輩らしいなぁと思う。