第5章 ジェイド【後編】
「ふ、ぁ…はぁッ…ん…!」
「は……。」
舌が咥内で蠢き、舌裏を擽り歯の内側の凹凸を伝う。熱い唾液が口の中に溜まって、舌が絡め取られる度ぬるぬると滑る。それがとても甘く腰を震わせて、顔に熱が集まっていくのを感じた。そんな時、何か冷たいものがポツリと頬に当たり静かに滑る。
「待っ…ジェ…イドさ…あめ…っ!」
「聞こえませんね。」
「んぇっ…!?」
一度唇が離れたかと思うと、それだけ呟いて再び問答無用で塞がれた。何度も角度を変えて唇へ甘く吸い付きながら啄む。その間も雨足は少しずつ強くなっていき、制服をしっとりと濡らしていく。
「何のっ…為に…傘を…!!」
「それは当然、貴方と共に寮に戻る為です。」
「言ってる事とやってる事が噛み合ってない…!」
「まぁそう仰らず。」
「ッ〜!!」
雨だか唾液だか分からない唇が触れ合う。熱くて溶けそうだった。宙で舌先同士が絡み合い、かと思えば咥内まで侵入し上顎の窪みを撫ぜて弄ぶ。甘く濃い口付けの内、雨はいつの間にか土砂降りへ変わった。
漸く離れた頃には互いの身体は髪から水滴が滴る程濡れている。散々弄ばれた私は何度か肩で呼吸を繰り返す。目の前のジェイド先輩は、余裕を残した表情で静かにふっと息を吐き出して笑う。
「おやおや。お互いこれ程迄に濡れてしまうとは困りましたね。」
「いや、誰のせいだと思ってるんですか…?」
「確か僕の覚えでは、貴方のオンボロ寮に乾燥機の様な物は置いてありませんでしたね。ですが明日も勿論、学校がある。」
「よ、よくご存知で…。」
「もしかしたらさんはお知りにならないかもしれませんが本来各寮にはこういった日の為に乾燥機が置かれているのです。勿論それはオクタヴィネルも然り。さて……ここで一つお伺い致します。」
布越しにジェイド先輩の指先が頬を撫でる。相変わらず彼は驚く程悪人という言葉が似合う顔で笑っていた。この人本当…計算高いなんてものじゃない。紳士かと思っていたけど、寧ろ悪魔だ。
「このままオンボロ寮へ帰られますか?それとも、僕と共にオクタヴィネル寮にいらっしゃいますか?」
「くっ……!そんなの…オクタヴィネルに行く以外選択肢ないじゃないですか…!」