第5章 ジェイド【後編】
「ジェイド、せんぱ…。」
一歩ずつ詰められる距離。詰め寄られた分だけ下がっていれば軈て踵と背中に何かが当たる。振り返るとそれは壁だった。左右から彼の腕が伸びて来て、壁に手を付く。私の身体はいとも容易く、すっぽりとジェイド先輩の陰へと隠れてしまう。
「騙した事はお詫び致します。ですがこれで僕の気持ちは、些か鈍い貴方でも十分御理解頂けたかと。」
「あ…えっと…。」
「次はさんが僕の質問に答えて頂けますか?貴方は今日よりも以前から、薄々僕の言葉が嘘だと気付いていた筈だ。それでも何も言わずにここへ来た理由は?」
「なっ…!」
顔から火が出るんじゃないかって位、熱くなるのを感じた。まさかそれがバレていたなんて。目を合わせられなくなってしまって俯く。しかしジェイド先輩はそれを許してはくれなくて、片手で私の顎をすくい上げた。
「どうか目を逸らさないで。それとも、僕のユニーク魔法をお望みでしょうか?」
「けっ…結構です!!」
「では、お答えいただけますね?」
ニコリと浮かべられる笑顔に、漸く観念して首を縦に振った。そうだ、私だって今日、これを言いに来たのだ。だから、恥ずかしがらないでちゃんと口にしないと。
「…最初は、キスするのが恥ずかしいって思ったし、何考えてるのかも良く分からない人だと思ってたけど…気づいたらジェイド先輩と話すのがどんどん楽しみになってて…キスも嫌じゃ無くなって……その…つまり…。」
「つまり?」
「………私、も…ジェイド先輩の事が好きです!」
両目を固く閉じ声を張って答えた。言っちゃった…言ってしまった…!告白をするのってこんなに恥ずかしいものだったっけ。ドキドキと早鐘を打つ自分の心臓の音がとても煩く感じた。何も返事が聞こえてこない。…なんで?と思って恐る恐る片目の瞼を持ち上げる。ジェイド先輩は眉を八の字に下げ、それはもう意地の悪い笑顔を浮かべていた。
「…ふふ、その言葉をどれほど待ち焦がれたか。」
「あの、ジェイドさ…ん、ぅ…!」
突如視点が合わなくなるほど彼の顔が近付き私の唇を奪った。今までの様な優しい口付けとは遠く、噛み付くみたいな荒いキス。鋭い歯牙が、肌を傷付けない様に物凄く優しく下唇を食み固く尖らせた舌が歯列を舐る。纏う雰囲気が獲物を前にした獣みたいで、余計心臓は破裂しそうな程高鳴る中静かに唇を開く。