第4章 ジェイド【中編】
「…聞いてくださいよトレイ先輩、の奴、夜な夜なオンボロ寮抜け出して誰かとこっそり会ってるみたいなんスよ。その相手、誰か知りたくありません?」
「人と会ってるなんて一言も……ッ」
「あぁ、なんだそんな事か。ジェイドだろ?楽しそうに話してるのを見た事あるよ。」
「え!?待っ……えっ!?」
トレイ先輩の言葉に耳を疑った。見た事が有る?…見られてた!?
冷たい汗が背中を伝う。あんな時間に人が通る事が有るなんて。
「部活で調理室を使ってたんだけど、授業の後そのまま向かった時に教科書を忘れてしまってさ。次の日小テストがあったから取りに戻ったんだけど、その時に。」
「あぁ……まさか、見られてたなんて…。」
「やっぱり、ジェイド先輩かよ。お前、なんであの先輩とそんな仲良いわけ?付き合ってんの?」
「付き合ってない!ただ、学年違うし放課後はモストロ・ラウンジで忙しいみたいだし話す時間が無いから夜になるだけで…!」
「へぇ、わざわざ2人きり…でか?」
「………そうだよ!別にいいじゃん、色んな魔法見せてくれるし楽しいんだもん!」
「うわっ、逆ギレし出した。」
「お前らなぁ…こんな所で大声張って喧嘩するなって。もどうどう。」
私を宥めるようにポンポンと頭を撫でる。縋る相手を間違えたというか、見られていたなんて予想すらしてなかった。というか、なんで私はエースとデュースにこんな問い詰められているんだ。面白半分で聞いてるなら辞めて欲しい。
唇を曲げて2人を見る。エースは深々と溜息を吐き出して後頭部をガリガリと掻きむしった。
「はぁー…なんでよりによってあんなヤバい人に取られなきゃなんねーんだよ。すっげー腹立つ。お前とずっと居たのは、オレたちなのにさぁ。」
「…ん?」
「…クローバー先輩、怒鳴ったりしないんでと話をさせて下さい。」
「だってさ。ほら、行って来い。」
「………はぁい。」
小さく呟かれたエースの言葉は聞き取れなかった。多分何かしら文句を言っていたのだと思うけど。トレイ先輩の手が背中をポンと押す。私は渋々彼らの前に出た。
「取り敢えず行こうぜ。」
「トレイ先輩、夜見た事は出来れば忘れて下さい。」
「それは無理だなぁ。」
「酷い!」
「ははっ、まぁ仲良くやれよ。」