第3章 ジェイド【前編】
「秘密……。」
「はい。僕とさんだけの秘密です。」
しー、っと人差し指を立て唇に寄せる仕草を見せ付けられ胸がドキリと脈打つ。顔がいいんだよ…顔が。それに何か秘密を共有するというのは無条件にドキドキするような気がする。私は返事をする代わりに何度か小さく首を縦に振った。
まるで恋人と居るような蜜月の空気が漂う中、予鈴のチャイムが鳴り響く。
ジェイド先輩は立ち上がり、私に手を差し伸べた。
「どうぞ。」
「あ…ありがとうございます。」
その手を取り立ち上がってズボンに着いた土を払う。この世界に来てから女性扱いされる事なんて殆ど無かったから調子狂うなぁ。
「それではまた。魔法を使いたくなった時は、いつでもモストロ・ラウンジまでお越しください。」
「はっ、はい!」
小さく頭を下げて私は次の授業へ向かった。中庭に残った彼が、とても悪どい表情を浮かべている事なんて知る由もない。
「あーっ、!お前どこ行ってたんだよ!1人だけさっさと逃げやがって!」
「いてて、だって私実験失敗してないもん!」
魔法史の授業の為教室に入ると既にグリム達は到着していた。どうやら私が最後らしい。エースの隣に座ると肩を組まれ拳でこめかみをグリグリと小突かれる。
「食堂行っても居なかったし、どこに居たんだ?」
「中庭で昼寝してたんだよ。気付いたら予鈴鳴ってて焦った〜。」
「オマエはオレ様と2人で1人なんだから、片付けも手伝うべきなんだゾ〜!!」
「うわわわ、ごめんってば〜!」
頭に乗っかったグリムが容赦無く頭を齧ってくる。何も悪いことはしてない筈なのに何で私は責められているんだ…!
程なくして本鈴が鳴り、トレイン先生の魔法史の授業は始まった。各々真面目にノートを取ったり、居眠りしたり、落書きしたりとあまり良いとは言えない授業態度の者も多い。私もこの中ではいい子とは到底掛け離れている。つい先刻の魔法を使う楽しさが忘れられず、次はどんな魔法を試してみたいかをノートに書き残していたのだから。
それから数日が過ぎた昼休み。使ってみたい魔法がある反面、己の欲望を満たすにはジェイド先輩との口付けが必要だ。そう思うと一歩尻込みしてしまう。ただ、一つだけ変化は有る。いつも通り、授業を終えてエース達と食堂に入った時の事だった。