第3章 ジェイド【前編】
「ふふ、驚きましたか?魔力を持つ者の体液を与えると、魔法が使えない人間でもほんの僅かな時間ですが使用出来るようになるのですよ。」
「…それを、先に言って欲しかったんですけど…。」
「それは申し訳ございません。先に話すと断られるかと思いまして。」
口元に手を添えクスクスと笑う。絶対悪いと思ってない人の笑い方だ。私がどんな反応するか見たくて黙ってキスしたとしか思えない。目を閉じる事が対価なのではなく、私のリアクションそのものが対価だったのでは…?
「ほら、そんなに難しい顔をしないで。魔力が切れてしまう前に、習った魔法の1つでも試したらどうですか?一年のこの時期なら…色変えの魔法くらいは教わっているでしょう。」
「…ジェイド先輩に言いたい事はいっぱい有るんですけど。それもそうですね。」
借りたペンを持って立ち上がる。ドキドキと胸が高鳴った。本当に使えるのだろうか?嘘かもしれない。…試してみないとわからない。
私はジェイド先輩のペンを握り締め、上部についた綺麗な宝石を薔薇の木に向け振った。
「…赤くなれ!」
キラキラと白い光が薔薇の花へ向かって飛んでいく。その光は一輪の白い薔薇に当たり、瞬く間に鮮やかな赤へと色を変える。
言葉を失った。本当に、魔法が使えた…!
「凄い!見ましたかジェイド先輩っ!私でも色変えの魔法が使えました!!」
「えぇ、勿論見ていましたよ。上出来です。」
先程口付けられた事なんてどうでも良くなる位、気持ちが昂りジェイド先輩の服の裾を掴んで赤く染った薔薇を指さした。彼は相変わらずクスクスと笑う。
「あーあ、エース達にも見せられなかったのが残念だなぁ。」
「それは困りますね。彼らに見せる、という事は僕がさんに口付けをした事を知られてしまいますから。」
「うっ……それは確かに…恥ずかしい…かも…。」
とどのつまりこの力はジェイド先輩の魔力を借りて使えているだけで私本来のものでは無い。そう考えると自慢出来ることはひとつも無いな。…でも、魔法を使う感動は、暫く忘れられそうにない。ペンを握りしめ唸っていると、彼の手がペンの頭を摘みそっと引き抜く。そしてそのまま曇りの無い宝石が私の唇へ充てられた。
「…今日の出来事を秘密にする、と約束出来るのならば、何度でも付き合って差し上げますよ。」