第3章 ジェイド【前編】
「また何か吹っ掛けてくる気ですか?」
「とんでもない。……もしも、ほんの一時だけ魔法が使える様になる、と言ったらどうしますか?」
「え!?本当ですか!?」
私は食い入る様にジェイド先輩に顔を寄せた。魔法薬でも無理だとクルーウェル先生に言われたのに、そんな事が可能なのだろうか?そんな一縷の希望をチラつかせられると反応せずにはいられない。あ、もしかしてアズール先輩ならどんな望みも叶えてくれる、ってヤツかな。
「えぇ、勿論。」
「どうすれば良いんですか?アズール先輩の所に行けばいいですかね?」
「その必要はありません。貴方の夢は僕が叶えて差し上げましょう。」
「できるんですか?あ……でも対価…」
「当然、頂きます。」
そうですよね。オクタヴィネルの人達がそう易々と何の対価も無しに願いを聞いてくれる訳有りませんよね。
一体何を対価として提示されるのか。ゴクリと生唾を飲み込むと、不意にジェイド先輩の大きな掌が頬へそっと添えられた。
「…あの、ジェイド先輩?」
「さぁ、目を閉じて下さい。そうすれば僕がさんの夢を叶えましょう。」
「目を閉じるのが対価?」
「そう思って頂いて構いません。」
「う、胡散臭いなぁ…。」
「安心して下さい。何も痛い事は致しません。」
「……分かりました。」
キュッ、と強めに両目の瞼を降ろす。これで一体どう対価になるんだろう。
閉ざされた視界の中、唇に静かな吐息が触れた。そして、暖かく柔らかな感触が重なる。
「……ぇ、っ!」
「大人しくしていて下さい。」
驚いて唇を開くとすかさず生暖かいものが口の中へと潜り込む。唾液を纏った長い舌が私の舌に絡み付き、擦り合う。頬にひたりと充てられた手の指先が耳介を撫で肩が跳ねた。
「んッ、ぁ…ふ……。」
「っは……。」
薄く瞼を持ち上げるとジェイド先輩の瞳と目が合った。一気に体温が上がる。何で私、口付けられてるの?
疑問を解消する間もなく、抵抗すら忘れ、されるがままに舌の付け根までねっとりと舐った後漸く唇が離れた。訳が分からず口を手のひらで抑え、目を丸くして彼を見るがジェイド先輩は悪びれも無く胸ポケットにさしたマジカルペンを私の隻手にそっと乗せる。