Good old fashioned lover boy
第8章 愛にすべてを
「ジュエル、どうしてここに…。」
そう言うと彼女はスルスルと私の背後に戻った。
恐らく屋敷内に侵入した彼と鉢合わせになってしまったのだろう。
すると、ジュエルが瞳をカッと見開いて彼の方を見始めた。
あぁ、こんなところで…。
「やめて!!!」
私が大声で叫ぶとジュエルはそのまま姿を消した。
「そうか、それで俺と目を合わせなかったのか…。」
「ごめんなさい、私…。」
「謝る必要はない。しかし、アンタはヤケに冷静だな。
普通、侵入者と鉢合わせにもなれば身の危険を感じて叫んで助けを求めたりその場から逃げるはずだ。
…何故それをしない。」
「過去にこの屋敷へ侵入し、見つかって殺された人を知ってるからです。
そのくらいはジュエルを使わなくても分かります。」
随分と偉そうなことを言ってしまった。
これで相手が機嫌を損ねたら私は間違いなく殺される。
そう思っていたが、彼はフッと笑って私に言った。
「先ほどとは違ってまっすぐこっちを見てるな。
俺はかつて暗殺者として数多の人間を手にかけてきたが、アンタのように臆することなく立ち向かおうとするその姿に敬意を評したい。」
「そんな、私は…。」
またいつもの癖ですぐに自らで否定を入れようとしたが彼が食い気味で言った。
「俺が言うのもなんだがアンタはもう少しだけ自分に自信を持った方がいい。
それでは自らを良い方向へは持っていけない。
…ところで、机に置いてあるその手紙はなんだ。」
私は思わず肩をビクリとさせてしまった。
この手紙は、あの「青年」への…。
しかし、彼は全てを悟ったように私にまた言った。
「アンタがその手紙を渡したいと望む相手を俺は知っている。
アンタが良いのであればその手紙を持ってはいくが。」
こんな事を言われて信用する人間はなかなかいないがでも何も出来ない私にはこれしかないと思った。
「お願いします。」
手紙を渡すと彼はその見た目とは裏腹に穏やかな口調で私にまた言った。
「アンタの生まれはシチリアか?」
「いえ、私ではなく両親がそうなんです。」
「この世界に飛びこんで二度とは戻れないと思ったが、少しは故郷を少しだけ誇りに思えた。
礼を言うぞ。」
そう告げて彼は部屋から立ち去った。