Good old fashioned lover boy
第11章 懐かしのラヴァーボーイ
その出会いから少し経った後、私は「彼女」と週末の昼にカフェで過ごす機会があった。
聞くところによると「彼女」はこうして昼間に外出することはほとんど無いと言っていた。
大体は自宅で過ごすことが多くて夕方から夜の時間帯にかけてだったら外出すると私に話していたのは今でもよく覚えてる。
「彼女」とカフェでお茶をしていた時、私は以前から気になっていた疑問を「彼女」に投げかけてみた。
「ねぇ、前から気になってたんだけどあなたってシシリーの出身?
なんだか話し方がそれっぽく感じたから気になってたのよ。」
「あぁ、両親がシシリーの生まれよ。
私はネアポリスで生まれたけど、両親の影響でこういう話し方になったのかもしれないわね。」
「料理とかするの?」
「もちろん。でもあまり出来てないのよね…。」
どの話をしても「彼女」は何かを隠すかのようにあまり多くのことを語るような人では無いという印象が強かった。
薄化粧で私服も目立った感じではないし、ステージの上に立つ人間にはどう考えても見えないといった感じだった。
「もっと自信を持ちなさいよ。あなたは素敵な才能の持ち主なんだから。」
「…そうね、トリッシュみたいにそうやって堂々と出来れば良いんだけど…。」
でも、今思えばああやって穏やかな時間が流れてる中で「彼女」と話をするのがどれだけ幸せなものだったのかを改めて実感出来る…。
そのわずかな時間はあっという間に過ぎ去って「彼女」は私の前から突然、姿を消してしまった。
教えてもらった携帯の番号に電話しても通じず、完全に「彼女」は消息を絶ってしまったのだ。
でも、その後に私なりに調べて分かったことは「彼女」の両親はイタリア国内では知らない人はいないと呼ばれたカルディナーレ夫妻の養子であったことと、その2人が事故死した後、レオナルド・ロッセリーニという実業家の男に支援を受けているということだった。
だけど、私はこれ以上踏みこむと自分の命が狙われてしまうのではないかという恐怖に襲われて何も出来なかったのだ。
調べてみてから「彼女」の周りにいたあの黒服の男達もなんとなく理由がつく…でも私にはどうしようも出来ない。
あの時の私はただその無力さに歯ぎしりすることしか出来なかったのだった。
そうやって昔の思い出に浸っていると彼が帰ってきた。
私は慌ててそのアルバムをしまった。
