Good old fashioned lover boy
第11章 懐かしのラヴァーボーイ
あの一件から私は屋敷から避難してホテルの一室に滞在していたが、そこも抜け出して小さなアパートメントに部屋を借りて暮らしていた。
私のせいで「彼」に怪我をさせてしまった現実から逃げた結果だ。
しかし、いつまでも閉じこもってばかりはいられずによくネアポリスの市街地をあてもなく歩く日々を送っていた。
ある日、いつも通る大きな通りの一本違う通りに入るとそこに一軒の花屋を見つけた。
ガーデニングが趣味だった母の影響で幼い頃から好きだった私はそのお店をとても気に入ったのだ。
店主である夫妻も穏やかで優しく私はよくその通りに顔を出すようになった。
そしていつものように店先にある花を眺めてると店主の女性が私に話しかけてきた。
「いつも来てくれるわね。お花が好きなの?」
「ええ、母の影響で…あの、迷惑でしたか?」
「とんでもない。いつも熱心に眺めてるから植物に詳しい人なのかなと思ったのよ。
ところで貴女、このあたりでは見かけない顔ね。」
「ええ、最近ここへ越してきたばかりで…。」
そう言って私が俯くと女性が驚くことを口にした。
「そうだったの…ねぇ、良ければうちで働かない?」
その言葉に思わず顔を上げると女性はそのまま続けた。
「前は姪が手伝いに来てくれてたんだけど、結婚してローマへ行っちゃってね。
私と主人でも限界があってお手伝いしてくれる人がいないかと思って探してたんだけどなかなか見つからなくて…。
もちろん強制じゃないから貴女が良ければでいいのだけど…。」
しかし、私は2つ返事でこのお店で働くことになったのだった。