第1章 噂話、の筈だった。
あのままでは落ち着いて話が出来ない為、一旦俺とサッチ、そして化物に怪我を負わされたという青年、ラグと共に店を出た。
「一緒にいたヤツは置いてきて良かったのか?」
「あぁ、アイツなら大丈夫ですよ。さっきはあんな言い合いしましたけど、心配してくれてるからだってわかってますから。」
「お前良い奴だな…そうだぞ、友達は大事にしろよ…!」
何故か感動して鼻をすするサッチに、ラグは少し驚きつつも素直に返事を返している。大の男が急に泣きそうな顔で見てきたら誰だってビビるからやめてやれ。若干引いてるぞ。
「ここが俺の家です。」
辿り着いたのは、俺が行こうと思っていた本屋だった。
「狭いんですけど、どうぞ座って下さい。今お茶出すんで。」
「あぁ、別にそんな気を使わなくていいよい。」
「いえ、お客様にはちゃんとおもてなししろって小さい頃から言われてますから。」
さっきまで大声で喧嘩していた人物とは思えない程礼儀正しく、本当に同一人物なのかと思ってしまう位だ。
お茶を入れてくるから少しだけ待っていてくれと言われ、残された俺達は店内をグルっと見渡した。
壁は一面の本棚になっていて全ての段にギッシリと本が詰まっているが、手入れも行き届いている。絵本等の児童書から医学書、図鑑まで一通り揃っていて、まるで小さな図書館の様だ。
暫く本を物色していると、ラグが奥からお茶を持って出てきた。
店の一角に置いてある椅子に座りお茶を受け取ると、向かい側に椅子をもう1つ持ってきて腰を下ろした。
「先程はお見苦しい所をお見せして申し訳ありませんでした。改めまして、この本屋の店主のラグと言います。我儘だとは重々承知しておりますが、どうか化物の事を調べて頂けませんか…!」
深く頭を下げるラグの手は、膝の上で固く握り締められていた。
「おいおい、取り敢えず顔上げろって?な?まずは詳しく話してくれねぇか?俺達も正直話がよく見えてないんだ。」
「そうだな…まずは噂話ってのをなるべく詳しく、それからお前さんがどうしてその怪我を負ったのかっていう経緯を聞かせてくれよい。調べるかどうか決めるのはそれからだ。」
「それもそうですね…わかりました。まず、噂話の事で俺が知っている事と調べてみた事をお話しますね。」