第1章 噂話、の筈だった。
「そうだ、この島に着く前に白い虎の噂を聞いたんだけど、本当にこの島にいるのか?」
サッチが店主に例の"白い虎"の噂の事を訊ねると、一瞬店主の目が見開かれた。が、次の瞬間には何も無かったかのように笑顔でこう言った。
「あぁ、白い虎はいるよ。この店のすぐ裏にあるのがその噂に出てくる森だ。少し歩くけど反対側の海が見える所まで行けば、そこに虎を閉じ込めた洞窟がある」
「え?それじゃああの噂本当なのか!?」
サッチがわくわくした様子で食い気味に話を聞こうとする。
店主は思わず数歩後ずさり、まあまあ落ち着いてと声を掛け、俺達を店内に置いてある椅子に腰掛けるように促し奥からコーヒーを持ってきてくれた。
俺とサッチはそのカップを受け取り、礼を言ってからそのコーヒーに口をつけた。中々上手い。喫茶店もやれるんじゃないだろうかと思う程だ。
「さて、白い虎の話だよね。何処から話せばいいのかなぁ…」
向かいのカウンターに寄り掛かりながら、自分用に入れた分のコーヒーを一口飲んで呟いた。
「結論から言ってしまえば、あの噂は大体本当なんだよ。白い虎は実際にこの裏手にある森の奥にある洞窟に閉じ込められているし、私もその時に立ち会ったからね」
今までの噂話が一転して事実だったと知り、俺とサッチは顔を見合せた。
「噂だとその"白い虎"は人を襲った結果洞窟に閉じ込められたって聞いたが…それも本当なのか?」
「確かに怪我人は出たけどそれも数人程度で、死人も出ていないんだよ。ただ…あの時のあの子はとても脅えているようだった。元々この島にそんな猛獣なんて居ないから、きっとこの島に立ち寄った商船か何処かから逃げ出してきて、この島の森に住み着いてしまったんだろうね」
「なるほどなぁ…確かに、虎って言えば森ってよりジャングルにいるイメージだもんなぁ」
店主は目を細めてコーヒーを一口飲んでからまた話し始めた。
「あんな所に閉じ込めるのは少々やり過ぎだと言ったんだ。でも身内を襲われた奴らは最初、あの子を殺そうとしたんだよ。まだ小さい子供なのに。人を襲ったのは知らない土地で脅えていたからだろうと言っても、中々聞いて貰えなかったんだ。それでも殺すのだけはやめてあげてくれと反対し続けた結果、洞窟に閉じ込めるという事で落ち着いたんだ。折衷案、ってやつかな」