第1章 噂話、の筈だった。
「なぁ、そう言えばこの島のログはどの位で溜まるんだ?」
「大体3日位だって聞いてるよい。…どうだ?その間にソイツ直せそうかい?」
サッチの剣をじっくりと査定していた店主に声を掛けると、顔を上げてニッコリと笑った。
「あぁ、3日あれば充分間に合う。それ迄はウチで預かるって事でいいかな?」
「ホントか!?助かった~!それじゃあ頼むなオッサン!」
「いやいや、こっちこそ助かるよ。こうやって外から人が来ないと、ウチみたいな店は食っていけないからね。持ちつ持たれつってヤツだよ。」
愛用の武器が無事に直って戻ってくると分かると急にご機嫌になるサッチ。コイツは本当に子供みたいに思ってる事がわかりやすい。
こういう話しやすい雰囲気を持っているから、他の奴らからも慕われるんだろうなと思う。
俺は別にいつも怒っているわけではないのに、1番隊の隊長になってからだろうか、何故か怒ると怖いというイメージがついて回っていた。
例えばさっき買い出しの指示を出していた時。俺が騒ぎを起こしたりしたら即連れ帰る、ハメを外しすぎるなと言った時の隊員達の顔はピシッと強ばっていたのだが、その後のサッチの一言ですぐにいつもの空気が流れ、強ばっていた顔も元に戻っていた。
それに、俺は船医だ。仲間が負傷したらまず俺が診る事になる。その船医が怖くて怪我を診てもらいたくないなんて事にでもなったら困り物だ。
「そっちのお兄さんは、何か悩み事でもあるのかな?」
「は?俺?」
「そう、君。さっきからずっと黙り込んだままだと思ったら、何か考え込んじゃったから。良かったら話すだけ話してごらん?それだけでも楽になるかもしれないよ」
「あとお前、最近眉間のシワ増えてね?」
相変わらずニコニコしている店主に悩み事がある事を一発で見抜かれたのは正直驚いた。他人から見ればわかりやすい顔をしていたのかもしれない。
それから、サッチには後で一発蹴りでも入れてやろうと心に決めた。誰のせいで眉間のシワが増えてると思ってやがる。
「いや…別に大した事じゃないよい。気にしないでくれ。」
「そうかい?じゃあ、もしこの島にいる間に話したくなったらいつでもおいで。見ての通り、この店にずっと1人だからね。話し相手が居ると助かるんだ。コーヒーの入れ方も忘れずに済む。」