第3章 答え合わせと、これからの話。
「ほらおいで~?怖くない怖くない~」
「……」
このやり取りがかれこれ15分は続いている。両者一歩も譲らず。平行線のままの15分間は、とても長い。その間に俺は食器も洗い終わったし、夕飯の仕込みの確認も終わった。
キッチンから戻ると、ナースの隙を見て素早く移動して、俺の足にしがみついてきた。
「うーん…こんなに警戒されるとは正直思ってなかったです…マルコ隊長もサッチ隊長も、一体どうやったらそんなに懐かれたんですか?」
「どうって…別に変わった事はしてねぇよ。俺は文字の読み書き教えたり、メシ作ったりしただけだ。」
マルコは怪我の治療もしてやってたけど、多分何かコイツの中で響くものがあったんだろう。でなければ、あんなに警戒心の強い少女が懐くとは思えない。
「ご飯…食べ物…あっ!これ、いる?」
そうして取り出したのは、小瓶に入った金平糖。
「いや~まさかそんなんで釣れねぇだろ…」
動物じゃねぇんだし、と続ける筈だったのに、目の前にはシーツを被ったまま少しずつ距離をナースの方へと縮めていく少女の姿があった。
「釣られるのかよ!?」
なんか悔しい。俺だって会ってすぐはここまで懐かれてなかったのに。
でも思い出した。コイツは野良猫みたいなモンだった。美味いモノに釣られるのも当たり前かもしれない…。
ナースの手にある金平糖の入った小瓶をじっと見つめ、少しずつ手を伸ばし始めた。
「お嬢ちゃん。これ、欲しい?」
伸ばしかけた手をサッと引っ込め、シーツを握り直して顔を隠してしまったが、隙間からチラチラと金平糖とナースの顔を交互に見比べている。
それを見たナースはニッコリ笑って手を差し出した。
「いいわよ、これは貴女にあげる。」
そう言ってナースは金平糖の入った小瓶が見えるように掌に乗せた。目の前で輝く小瓶と微笑むナースの顔を交互に見てキラキラと輝かせた瞳を向けるが、そんな彼女に向かってこう付け足した。
「但し、私のお願いを聞いてくれたら、ね?」
ヒョイっと小瓶を摘んで持ち上げ、ニッコリと綺麗な笑みを浮かべるナースに何かを察したのか、少し不安そうな顔でごくりと唾を飲み込んだ。
「怖がらなくても大丈夫よ?一緒にシャワー、入りましょう?」
きょとんとしているそこのお前。今お前は物凄く羨ましいお願いをされてるんだぞ。