第3章 答え合わせと、これからの話。
その瞬間、店の中の時間が止まった。
穏やかな笑顔が印象的な店主の口から出たのは、そこからは想像もつかない大きな声と、化物の噂を知る人間にとって衝撃的な言葉だった。
空気が張り詰め、身動きすら出来ずに固まる店主とラグ。
今この空間でまともに頭が動いているのは俺だけだろう。
「な、に…いって」
ラグの絞り出すような掠れた声にハッとして、店主は慌てて立ち上がり、ラグから離れた。
「叔父さんの血しか吸わないって…どういう事…?叔父さん…何を、知ってるの?…何を…"何かした"の…?」
ここまで追求されたら自ら口を割るだろうと思っていたが、店主は口を手で覆ったまま立ち尽くしている。
本当はあまり自分が口を挟まない方がいいと思っていたが、このままでは埒が明かない。
「あのガキに、人体実験をしてた人間の内の1人って所だろうなァ」
「マルコ、さん…?それ…誰の事を、言ってるんですか…?」
「あぁ悪ぃな、今から説明する。まずこの島の森の噂話の"白い虎"と"化物"は同じ物…いや、同一人物だよい」
「虎と、化物が、同一人物…?」
動揺しながらも何とか話を理解しようとするラグの目をまっすぐ見据えて、そのまま話を続けた。
「簡単な話だよい。吸血鬼の能力を元々持った状態のガキが、悪魔の実を食べた事で虎にもなれるようになったって訳だが…その吸血鬼の能力ってのは、恐らくアンタが人体実験をした結果だろうなァ…違うか?」
「…本当なの、叔父さん」
一向に話そうとしない店主に痺れを切らし、ラグが店主に掴みかかろうとしたその時だった。
「参ったなぁ…」
店主の呟いた声は、静かな店内にとてもよく響いた。
俺もラグも、店主が次に何を口にするのか固唾を呑んで耳を傾けた。
「誰にも言わないって、約束したのになぁ…」
眉を下げて困ったように笑う店主は、何処か辛そうな表情をしていた。
「約束…?」
「そう、約束したんだよ。"私の血だけしか飲まない"ってね。」
一度大きく深呼吸をして肩に入った力を抜いた店主は、いつもの穏やかな笑顔に戻り、再びこう言った。
「コーヒーを入れてくるから、少し座って待っていてくれるかい?」