第3章 答え合わせと、これからの話。
「そういやァ、お前名前は何て言うんだ?」
オヤジの言葉で今まで忘れていた重要な事を思い出した。
コイツには名前が無い。ずっと適当に呼んでいたが、これからはそうもいかない。
「コイツ名前無いんだよ。流石にずっと嬢ちゃん呼びは可哀想だしなぁ…あ、マルコが名前付けてやれよ」
「は?何で俺なんだよい」
「え?一番懐かれてるから。」
当たり前だろ?としれっと返すサッチに、お前も充分懐かれてるぞと言ったのだが、当の本人は少女に「勝手に動いちゃ危ないだろ~」と話し掛けながら怪我が増えていないか確認していて、俺の話を聞こうともしていない。
「名前か…」
今まで犬や猫のペットを飼った事も無いし、勿論人の名前なんて論外だ。突然名付け親になれと言われても困る。
気付くと少女がサッチと一緒になってジッと顔を覗き込んでいた。
「…わかった。名前は考えておくから、時間をくれ。流石にこういうもんはすぐに思い浮かばないよい…」
この後どうせ本屋にも行くんだし、そこで何か良さそうな名前を幾つか探してこよう。
「取り敢えず、俺は予定通り村にもう一度行ってくる。お前らは船で大人しくしてろよい。」
「りょーかいっと」
「お前が平気なら、後でナース達にも相手してもらえよい。この船には強い姉貴も沢山いるからな」
『こわくない?』
紙に小さく書かれた文字と表情からは不安が読み取れる。
まだ他の人間に会う事に恐怖心はあるだろうが、少しずつそれも克服していかないといけない。
強面のクルー達よりも、同性のナース達の方が最初は安心するだろう。
「そんな事ねぇよい。まぁ、怒らせたらわかんねぇけどな。」
怒らせたらという言葉に緊張したのか、少し背筋をピンと伸ばしてから、わかったという風にコクコクと頷いた。
「じゃあマルコも用事あるって言ってるし、お前もそろそろ部屋戻って休むぞ~」
コクリと1つ頷いてから、何か言おうとしたのか口をパクパクと動かしたがやはり声は出ず、また新たに文字を書き出した。
『いってらっしゃい』
その後大人しくサッチに手を引かれて医務室へと戻る背中を確認してから、俺も村へと向かった。
「最近いつも眉間にシワばっかり作ってたのに、あんな顔するとはなァ…」
1人その場に残ったオヤジが、酒を飲みながらそんな事を言っていたなんて知りもせずに。