第3章 答え合わせと、これからの話。
昔から物を覚えるのは早い方だったと思う。早く覚えて出来るようにならないと、怒られて叩かれるから。それが嫌で必死に教えられた事を覚えた。
文字を読む事は教えられたけど、書くのは教えて貰えなかった。今思えば、周りと何かやり取りして逃げられないようにしていたのかもしれない。
でも、この人達のお陰でやっと文字を書けるようになった。
『たすけて ください おねがい します』
大丈夫かな、読めるかな、伝わるかな
目が覚めて部屋に私1人だという事に気付いた時、心臓がドクンと大きく鳴った。
もしかしたら私はこの後また置いていかれるのかもしれない。それとも、私がここに居る事があの人達に見つかった?
今までそんな事無かったのに、会ってまだ少ししか経っていないマルコとサッチと一緒に居ただけで、急に1人になるのが怖くなった。
そう考えたらじっとしていられなくて、部屋を出た。後ろで何か声がした気がするけど、今はそれよりも2人を見つけなくては。
暫く歩くと何処かから聞き覚えのある声が聞こえて、その方へ早足で向かった。
扉をそっと開けて向こう側を覗くと、マルコが大きな白い髭の男の人となにか話している。すると大きな白い髭の人と目が合った。
(みつかった…!)
鋭い目で睨まれて動けなくなり、被ってきた毛布で出来るだけ顔を隠す。
「…おい、そのチビはなんだ?」
勝手に歩いて怒られるかな、もしかして追い出されるのかな、でも、また1人になるのは…
「あっ!いたァァァ!!コラッ!お前まだ寝てないとダメだって!」
そういえば今日はサッチが一緒にいてくれると言っていたのに、すっかり忘れて部屋を勝手に出てきてしまった。思い返せば部屋を出た時に声がした様な気がする。
「あー…ったく仕方ねぇなァ…ホラ、こっち来い」
その言葉に、凄くホッとした。私がしがみついても、嫌がって突き放したりしないでそのまま頭を撫でてくれる。
ごめんなさい。1人で居るのが怖かったから、勝手に部屋から出ちゃったの。サッチは悪くないよ。怒らないであげて。
伝えたい事が次々溢れてくるのに、喋れないのがもどかしい。
声が出るようになれば、もっとちゃんと色んな事を伝えられるのに。
この白い髭の人にも伝わるかな、伝えられるかな。
文字を書いた紙を持つ手の震えは、中々止まらなかった。