第2章 ケモノで、バケモノ。
これで噂の白い虎の正体は、悪魔の実の能力だという事が判明した。
夜の怪物の正体もこの少女なのはハッキリしているが、その能力が一体どこから来たのか全く検討がつかない。
「文字読めるなら書くのも教えてやるよ、その方が便利だろ?」
近くにあった紙とペンを持ち出してきて、少女に文字の書き方を教え始めるサッチ。少女も興味深そうにじっとその様子を見ている。
確かにあの時、首に刺さった牙から血を吸われた感覚があった。しかし普通虎は血を吸わない。それは悪魔の実の能力でも変わらないだろう。
机の上に置いてあるラグに借りた本をもう一度開いた。
("吸血鬼"…"実在しているかどうかは、未だ不明")
目の前で慣れない手つきでペンを握って文字を書こうと格闘している少女は、どう見ても人間だ。
しかし、例えば魚人や人魚達のように、吸血鬼の力を持つ種族も居るのかもしれない。
だが残念な事に、今日までこの白ひげ海賊団で航海を続けていてそんな種族が居るというような話は聞いたことが無いし、文献も見たことが無い。
それこそ今回借りたこの本に書いてあるような、空想上の話なのだ。
(血を吸う動物…蚊、ヒル、コウモリ、ダニ、ノミ…)
少女を観察しながら、そういえば点滴をそろそろ変えた方が良いかもしれないと思った時、腕にあった複数の注射痕の事を思い出した。
(…まさか)
点滴。注射。薬品。…もしかしたら、という仮説が頭に浮かんだ。しかし今すぐそれを確認する事は出来ないし、これは先にオヤジに相談した方が良いかもしれない。
「サッチ、後でオヤジにコイツの事話したら、その後船で面倒見ててくれよい。」
「そりゃ別にいいけど…お前どこ行くんだよ?」
「ちょっと確かめたいことがある。時間かかるかもしれねぇし、その間コイツを此処に1人にしとくのも心配だからついててやってくれよい。大分お前にも懐いてるみたいだしな。」
頭に浮かんだ嫌な予想が本当かどうか、本人に今聞くのは躊躇う話だし、覚えていないか、分かっていない可能性も高い。
そして今までの情報を整理する為にも、もう一度話を聞く必要があると判断したのだ。
不安そうな顔で遠慮がちに俺の服の裾を掴む少女を安心させようと思い頭を軽く撫でると、擽ったそうに顔を緩ませるから、釣られて俺も少し口元が緩んでしまった。